マオリョー、防犯対策します④ CEO相手に、失礼よ
「だから言ってねえっつってんだろおおおおお!! 慰謝料の請求先がなんでお前なんだよ!」
俺は声を張り上げた。
「自分への貢ぎ物を部下の無言に乗せてカツアゲすんなこの不良役員!」
俺はゼノの胸ぐらを掴みかからんばかりの勢いで吠えた。
「ちょっと勇者! CEO相手に失礼よ!」
リリは目を泳がせた。
「ゼノさんはね、魔王の代理を打診されるくらい偉い人なんだから!」
「エリートのわたしでさえ、ゼノさんには敬語でアグゥリィを取ってるのよ!」
「お前がペコペコしてるから余計に調子に乗ってんだろ! 大体なんだこの腹話術コントは!」
俺は天を仰いだ。
「俺はただ、飯の泥棒を捕まえてほしいだけなんだよ!」
「…………」
ノクテは相変わらず無表情のまま、今度は俺に向かって、スッと右手を差し出した。
「おっ? なんだ、握手か? やっと本人が直接コミュニケーションを取る気に……」
「……うむ。ノクテはこう申しておる。『前金として、ゼノ様にマッサージチェアを』……とな」
「だからお前が喋るなあああああ!! その手はマッサージチェアの要求の手じゃねえだろ!」
俺は半目になった。
「絶対『任せてください』の握手の手だろうが!」
俺のツッコミに、ゼノは「やれやれ」と大仰にため息をついた。
「……最近の若者は、行間を読むという奥ゆかしさが足りんな」
「ノクテのこの雄弁な沈黙から、我への忠義と気遣いが読み取れぬとは」
「マオリョーの未来が案じられるわ」
「行間じゃなくてお前の欲望の行を勝手に書き足してんだよ!」
俺はツッコんだ。
「頼むノクテ、一言でいい、お前の口から直接『引き受ける』って言ってくれ!」
「じゃなきゃ俺はこのおっさんに何を毟り取られるかわかったもんじゃねえ!」
俺が懇願するようにノクテを見つめると、ノクテはゆっくりと瞬きをし、そして。
「…………」
親指を立てて、グッ、とサムズアップした。
「おっ! サムズアップ! これは万国共通の『オーケー』のサイン! これならいくらこのおっさんでも翻訳詐欺はできねえだろ!」
「……うむ。ノクテはこう申しておる」
「まだ訳す気かよ!! いいよもう! サムズアップはオーケーで決まりだろ!」
「『……ゼノ様の言う通り、マッサージチェアと、追加で最新型の全自動肩たたき機も要求いたします。オーケー?』……とな」
「オーケーじゃねええええええええ!! どんだけ肩凝ってんだよお前は! 自分で買いに行けええええ!!」
俺は和室の畳に突っ伏して、ガンガンと床を叩きながら泣き叫んだ。
なんでこの城の連中は、どいつもこいつもまともに仕事の依頼一つ受けてくれないんだ。
会話が成立しない精霊、子供扱いでキレるトカゲ、絶対零度のツンデレ魔族に続いて、今度は部下の沈黙を悪用して私腹を肥やそうとする通訳詐欺の不良役員だ。
「……わかった、わかったよ! 酒でもなんでも買ってきてやる!」
ゼルは牙を剥いた。
「その代わり、俺の食料を盗む真犯人を絶対に見つけ出せよ!」
「そして、これ以上俺の飯が減らないように、この城の防犯を完璧に固めてくれ!」
俺が血の涙を流しながら承諾すると、ゼノは満足げに深く頷いた。
「……うむ。交渉成立だな。安心せい。我が従者ノクテの警備と防衛網は、魔王軍随一。アリ一匹、貴様の食料には近づけさせん」
「…………(スッ)」
ノクテも、影のように音もなく深く頭を下げ、任務の承諾を示した。
「頼むぞマジで……俺の命が、お前のその無言の仕事ぶりにかかってんだからな……」
俺は、ゼノに巻き上げられるであろう酒代(また借金が増える)の計算をしながら、重い足取りで部屋を後にした。
城内を見張れる諜報のプロ、ノクテに警備を依頼することには成功した。
だが、この時の俺はまだ知らなかった。
寡黙で忠実すぎるがゆえに、この影の従者が、どれほどの『過剰な忠誠心』と『過剰な防衛能力』を秘めているかということを。




