マオリョー、防犯対策します① 数が、合わない
「……は? おい、嘘だろ。どう数えても、数が合わねえ」
アイシスの暴走によってシベリアの永久凍土と化した、魔王城の冷え切った大広間。
俺は、瓦礫で組んだ備蓄置き場の前にしゃがみ込み、干し肉の束を何度も数え直しては、こめかみを引きつらせていた。
「おいふざけんな! なんで俺のなけなしのカロリーが減ってんだよ!」
俺はツッコんだ。
「ただでさえ城中が凍結してて、凍死スレスレのサバイバルを強いられてるってのに!」
「昨日アイシスから恵んでもらった大事な『備蓄用の干し肉』の束が、明らかに三割くらい減ってんだよ!」
「なによ朝っぱらから。エリート人事のわたしのモーニング・ルーティンを邪魔しないでよね」
丸メガネをズレさせた白銀ツインテール――リリが、あくびをしながら現れた。
「お肉が減ってる? それは気のせいじゃないかしら」
リリは胸を反らした。
「あるいは、乾燥によるアセットのシュリンク(目減り)ね」
「エリートにはわかるわ、自然現象よ」
「乾燥で肉の束がごっそり減るわけねえだろ! 明確に、物理的に盗まれてんだよ!」
俺は頭を抱えた。
「夜ごと食料が消えるんだよ! 絶対にこの城の中に泥棒がいる!」
俺が怒鳴っていると、奥の部屋から古龍のゼルが目をこすりながら出てきた。
「ふぁ〜……なんや朝から騒がしいな。おっちゃん、腹減ったわ。朝飯の肉くれや」
「お前だろ! お前が夜中につまみ食いしたんだろこのトカゲ! 食い意地張ってるお前以外に犯人は考えられねえ!」
「アホか! 俺は朝までぐっすり寝とったわ! 濡れ衣着せんなや!」
「……ふふっ。皆さん、朝から元気ですね」
深海色の髪の精霊、ミィナが微笑みながら近づいてくる。
「勇者様の大切なお肉を盗むなんて、不浄な泥棒さんですね」
ミィナは静かに微笑んだ。
「わたしが城中を綺麗な『お水』で満たして、泥棒さんごと洗い流して浄化してさしあげましょうか?」
「お前は絶対何もしないで息を止めてろ! お前の過剰浄化が一番の全損リスクなんだよ!」
俺は頭を抱えた。
この極寒の環境下で、食料を失うことは文字通り「死」を意味する。
「……くそっ! こうなったら俺の『探索強化』の出番だ!」
ゼルは牙を剥いた。
「俺の初期スキルで、城内のどこに食料が隠されてるか、あるいは泥棒がどこに潜んでるか丸裸にしてやる!」
「ふふん! わたしが結んであげたスキルに頼るのね! ありがたく使いなさい!」
俺は、恩着せがましくドヤるリリを無視して目を閉じ、意識を魔王城全体へと拡大させた。
城の外は相変わらず鮮明だ。北の森の奥、リスが木の実を隠している場所まで分かる。
だが城の内側に意識を向けた瞬間——霧の中に放り込まれたような感覚。壁に阻まれて、廊下の形すらぼんやりとしか分からない。
「……やっぱり駄目だ。わかってたけど、やっぱり駄目だ」
「1話の時から言ってるでしょ。城の中は壁に阻まれてぼやけるって」
「わかってても試したくなるだろ! あわよくばって気持ちが人間にはあるんだよ!」
俺は舌打ちをして、探索を解除した。
城の外なら賊一人の殺気まで読めるのに、城の中は壁に阻まれてまるで使い物にならない。このままでは、毎晩少しずつ貴重な干し肉が盗まれ、いずれ俺たちは全滅する。
(……待てよ。犯人が特定できないなら、いっそのこと……)
俺の脳内で、最高にセコくてクズな打算のスイッチがカチッと入った。
(どうせこのまま置いておいたら、犯人に全部盗まれる。だったら、盗られる前に俺が全部独り占めして、俺の部屋に隠しちまえばいいんだ! 俺の飯は俺のものだ!)
「……よし。お前ら、泥棒には俺が責任を持って対処しておく。だから今日のところは解散だ!」
「なによ、急に仕切っちゃって。まあいいわ、わたしは二度寝のタスクに戻るから」
「俺も寝るでー。腹減ったけどしゃーないな」




