マオリョー、在庫処分します⑨ 共同作業じゃ、ない
「……ふふっ。素晴らしいです、アイシス様。城中が、あなたの氷で満たされました……。わたしたちの、共同作業ですね……」
「共同作業じゃねええええええ!!」
俺はツッコんだ。
「お前ら二人の盛大な痴話喧嘩に、なんで俺の命と全財産が巻き込まれなきゃなんねえんだよおおおお!」
「!」
俺の足元はすでに分厚い氷に覆われ、膝下まで完全に床と一体化してしまっていた。
動けない。一歩も動けない。
それどころか、極寒の冷気が足から直接体内に侵入し、俺のHPゲージを容赦なく削り取っていく。
「……いてぇ! 冷たいを通り越して痛い! 痛い痛い痛い! 足の感覚がねえぞ!」
「これ完全に凍傷だ!」
「初期装備の布の服でマイナス数十度の世界に放り込まれるとか、どんなハードコア縛りプレイだよ!」
俺は、氷漬けになった自分の足をバンバンと叩きながら、半狂乱になって叫んだ。
「おいポンコツ人事! お前エリートなんだろ!」
俺は頭を抱えた。
「この『全社一斉凍結』とかいう超絶ブラックな職場環境をどうにかしろ!」
「労基どころか国連の査察が入るレベルの非人道的な仕打ちだぞ!」
リリは、俺の隣で、鼻水を凍らせながらカタカタと歯を鳴らしている。
「……ガタガタガタ! む、無理よぉ……!」
「完全にアセット(資産)がフリーズ(凍結)してるじゃない!」
「これじゃ会社のキャッシュフローがショートして、文字通りの倒産よぉぉ!」
「誰か、この冷え切ったマーケットにホットなシナジーを!」
「うるせええ!」
俺は指を突きつけた。
「アセットもキャッシュフローもマーケットも全部凍ってんだよ、横文字の前に体が凍結してんだろうが!」
「フリーズを物理的な意味で使うな!」
「ホットなシナジーじゃなくて、ただの火を持ってこいって言ってんだよ!」
「ゼルが完全に氷漬けになって沈黙してるわよぉ! この城、もう終わりよぉぉ!」
見れば、火力担当のゼルは、完全に四つん這いの状態でカチンコチンに凍りつき、見事な氷の彫刻と化していた。
終わった。俺の異世界生活、ここに完結。
初日に前借りの借金だけを背負わされ、二日目に全財産である非常食をミィナに消し飛ばされ、そして三日目にして、就職先の魔王城で全身凍傷になって死ぬ。
どんなクソゲーでも、もうちょっとマシな救済措置があるはずだぞ。
「……ふふっ。勇者様、顔色が真っ青ですよ。大丈夫ですか?」
ミィナは頬に手を当てた。
「わたしがもう一度、勇者様の体を温かいお水で浄化してさしあげましょうか?」
「絶対に来るなああああああ!!」
俺は声を張り上げた。
「お前が今水を出したら、それが俺の体に付着して、一秒で俺ごと氷の彫刻になるだろうが!!」
「お前のそのズレた健気さが、一番の凶器なんだよ!! 頼むから、もう黙ってくれ!」
「俺を安らかに死なせてくれ!」
俺は、限界を迎えた体力と精神力で、涙を流しながら虚空に向かって絶叫した。
火は得たが、食料が腐る。それを解決しようとして、今度は城ごと凍結する。
解決策が、常に前の問題の十倍の厄災を引き起こす、このマオリョーという倒産企業。
そして、その原因のすべてを作っている、目の前のポンコツ精霊。
俺は、完全に凍りついた足の痛みに悶絶しながら、本日の収支計算を脳内で叩き出した。
「……痛い……寒い……腹減った……」
俺の全財産=永久氷壁の中。
俺の足=凍傷でHP持続減少中。
「……大損だ。完全なる、大損だ……」
城の奥深く、誰も助けに来ない永久凍土の回廊で。
俺の悲痛な叫びは、絶対零度の冷気の中に、ただ虚しく吸い込まれていった。
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もう、ここで終わりかもしれない。そう思いかけた、その時だった。
ふと、気づいた。




