マオリョー、在庫処分します⑧ 任せてください、と微笑む
「……任せてください、アイシス様」
ミィナはうっとりと目を細めた。
「あなたの忠実な部下であるミィナが、このマオリョー城全体を、あなたが思う存分氷を作れる『最高のクリスタル・パレス』にしてさしあげます……!」
「これで、もう引きこもる必要なんてありませんよ……ふふっ」
「やめろおおおおおおおお!!!」
俺が止める間もなく、ミィナが、両手を静かに、しかし先ほどよりも遥かに強い魔力で天へと掲げた。
「いきます……『清浄なる大瀑布』……限界突破です……!」
「こんな時までその可愛いひらがなルビ使うんじゃねえ! 規模が世界の終わりなんだよ!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!
城の奥深くから、地鳴りのような音が響き渡る。
次の瞬間、俺たちが立っている廊下のあちこちから、文字通り壁をぶち抜いて、とてつもない量の濁流――いや、ミィナの過剰な浄化魔法によって生み出された『超純水』の奔流が、津波のように押し寄せてきた。
「ぎゃああああああああ!? 城の中で津波が起きたぞおおおおお!! 屋内で使っていい魔法のスケールじゃねえだろ!」
「きゃあああああっ!? 助けて! エリート人事のわたしが、ただの溺死体になっちゃうぅぅ!」
リリは丸メガネを押し上げた。
「これじゃオフサイトミーティングがウォーター・アクティビティよ!」
「横文字でレポートすんな! ぶくぶくぶくっ……! アカン、俺、水はあかんねん……!」
「……ふふっ。アイシス様、さあ、思う存分、お力を振るってくださいね。……わたしのお水、全部あなたに捧げますから」
その時だった。
ミィナの重すぎる愛情――もとい、殺人的な水量の津波が、アイシスの部屋の氷の扉を完全に水没させようとした瞬間。
『……っ! いい加減にしなさい! この、歩く粗大ゴミ精霊がああああああ!!!』
部屋の中から、アイシスの、もはや冷静さを完全に失った悲鳴のような絶叫が轟いた。
「おおっ!? アイシスがキレた! ツンデレ女王がマジギレしたぞ!」
『……わらわは! ただ静かに一人でいたいだけなのよ! なんでお前はそうやって、いつもいつもわらわの気持ちを逆撫でして、無駄に重い水ばかり撒き散らすの! 気持ち悪い! 鬱陶しい! 凍れ! 全部凍って砕け散りなさい!!』
アイシスの高いプライドと、ミィナの異常な献身に対する激しい動揺。
その二つの感情がごちゃ混ぜになった結果、アイシスの制御タガが完全に外れた。
ピシッ、という小さな音の後。
俺たちの視界が、完全に『白』に染まった。
「……えっ?」
ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッ!!!!!
アイシスの部屋を中心にして、絶対零度の衝撃波が、超新星爆発のように全方位へと放たれた。
ミィナが放った津波が。廊下が。壁が。天井が。
そして、逃げ惑う俺たちの足元から、城のすべてが。
一瞬にして、文字通り『一瞬』にして、巨大な氷の結晶へと変換されていく。
「うおおおおおおおおっ!? 凍る! 城が丸ごと凍っていくぞおおお!!」
「いやあああああ! 寒い! 寒い! エリートのわたしが冷凍保存されるぅぅぅ! こんなの完全に労災案件、労基に訴えてやるぅぅ!」
「アカン……俺の火でも、これは無理や……社長ぉぉぉ……」
ミィナの浄化魔法による膨大な水量。
そこに、アイシスの動揺による規格外の冷凍魔法が掛け合わさった結果。
二つの魔法は最悪の形で二重発動を起こし、城を、全社一斉に完全凍結させてしまったのだ。
――いくらアイシスでも、一人で城を丸ごと凍らせる芸当は、普通できない。このアホ精霊が城中をプール並みに水浸しにしたから、それをアイシスが凍らせて、『水のあるところ全部が氷』という地獄が完成したのだ。こいつらの合わせ技は、最悪の方向にだけ完璧だった。




