表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王軍倒産しました。〜領地は絶賛再建中・勇者は絶賛就職中〜  作者: 瀬大
第4話 マオリョー、在庫処分します
PR
40/88

マオリョー、在庫処分します④ 腐る前に、売りたい

暑い中庭の瓦礫の陰。俺は、腐りかけのウサギ肉が入った麻袋を抱え込んだまま、荒い息を吐いていた。


「なんなんだよあの女!」

俺は半目になった。

「ちょっと肉を冷やしてくれって頼んだだけで、喉元に氷のギロチン突きつけてきやがって!」

「アイシスの冷気、完全に規格外じゃねえか! ただの冷蔵庫のレベルじゃねえぞ!」


「だ、だから言ったじゃない! あの女、性格が絶対零度なのよ!」

リリは目を泳がせた。

「エリート人事のわたしでさえ、コミュニケーションの断絶を感じるわ!」


「断絶させたのは絶対お前とこのアホ精霊の日頃の行いのせいだろ!」


俺が怒鳴りつけると、ミィナが不思議そうに小首を傾げた。


「……ふふっ。どうして逃げ帰ってきてしまったのですか、勇者様」

ミィナは静かに微笑んだ。

「アイシス様の氷の刃、とってもキラキラして美しかったのに」

「……わたし、もっと近くで拝見したかったです」


「お前の能天気さが一番怖いんだよ! 拝見する前に首が飛んでただろうが!」


俺は立ち上がり、麻袋の中身を瓦礫のテーブルにぶちまけた。


ドス黒く変色し始めたウサギ肉と、森で集めた木の実や野草。このままでは、今日の昼には食中毒確定のバイオ兵器と化す。


「……アカンな、おっちゃん。この肉、もう結構ヤバい匂いしとるで」


ゼルが鼻をつまみながら顔をしかめた。


「せやから俺が焼いたる言うてるやろ! カリッカリの消し炭にしたら、匂いなんか一瞬で消えるわ!」


「消し炭にしたらカロリーも消えるんだよ! お前はもう火を出すな!」


俺は頭を抱えた。


正面からのお願いは、見事に氷の刃で門前払いされた。


だが、ここで諦めるわけにはいかない。相手はプライドの高い氷の魔族だ。バカ正直に頼むからダメなんだ。大人ってのは『打算』と『損得勘定』で交渉するもんだろ。


と、そこで――俺の脳内で、セコい打算のスイッチがカチッと音を立てて入った。


待てよ。こいつをただ凍らせてもらうだけじゃ、もったいなくないか?


アイシスの氷は、その辺の冷蔵庫とはわけが違う。あの規格外の冷気で保存した肉なら、ただの保存肉じゃない。『魔王城の執行役員が手ずから冷凍した、最高級チルド肉』だ。


……これ、いつか街で売れば、とんでもない値がつくんじゃないか? 食料保存どころか、新しい金脈じゃねえか!


「ぐふっ……ぐふふふ……」


「うわ、勇者の顔がどんどん詐欺師になっていくわよ。完全にお金の幻覚が見えてる顔ね」


俺は笑いをこらえきれず、テーブルの上のウサギ肉を手に取った。


だが、よく見ると肉はドス黒く変色して、お世辞にも『最高級』とは言えない見た目だ。これじゃ買い手がつく前に値切られる。


ここで、俺の打算がさらに余計な方向に加速した。


「……そうだ。アイシスに見せる前に、この肉、ちょっと見栄えをよくしとくか。商品はパッケージが命だからな」


俺は近くの水瓶から手桶で水を汲み、変色した肉の表面を、丁寧に、丁寧に洗い始めた。


表面のヌメリを落とし、てらてらと水で光らせれば、新鮮な高級食材に見えるはずだ。完璧な『先行投資』だ。


「ちょ、ちょっと勇者! あんた、肉を水浸しにして大丈夫なの?」


「うるせえ、これは演出だ。濡れて照ってるほうがうまそうに見えんだよ。スーパーの精肉コーナーだってそうだろ」


「すーぱー? なにそれ、新しいアライアンス先?」


「お前は黙って氷の部屋まで案内しろ!」


俺は、ビッチャビチャに水洗いした肉を麻袋に詰め直し、ホクホク顔で担ぎ上げた。


傍らでミィナが微笑んでいたが、俺は釘を刺しておいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ