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魔王軍倒産しました。〜領地は絶賛再建中・勇者は絶賛就職中〜  作者: 瀬大
第1話 マオリョー、求人募集します
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マオリョー、求人募集します④ 契約の印は、燃えるように熱い

そして、俺が名前を書いた、まさにそのとき――なんか、ものすごく嫌な予感がした。


---


契約書にサインした瞬間、古ぼけた羊皮紙から淡い光が弾けた。


ペン先が紙に触れた一点から走ったその光は、まるで静電気のように俺の指先を伝い、腕を駆け上がり、最終的に瞳の奥へと熱を帯びて飛び込んできた。


「うおっ、あっつ! なんだこれ、目が、目がぁぁっ!」


俺は顔を覆ってうずくまった。敵の組織に就職した挙句、よくわからない魔法を食らって床を転げ回る勇者。我ながらドン引きの展開だ。


「ちょっと、大げさね。ただの契約魔法の証よ」


指の隙間から見上げると、色気ゼロのサキュバス、リリがふんぞり返って俺を見下ろしていた。その丸メガネの奥の瞳には、俺と同じ奇妙な紋様が浮かんでいる。


「け、契約魔法……? おい、変な呪いとか借金の肩代わりとかじゃないだろうな!」


「失礼ね! わたしがあなたに結んであげたのは、由緒正しき『探索強化の契約魔法』よ!」


リリは豊かではない胸をグッと張り、ドヤ顔で言い放った。


「たんさく、きょうか?」


「そう! あなた、どうやらそういう地味な才能だけはあるみたいね」

リリは得意げに丸メガネを押し上げた。

「これで、見えない敵の気配を察知したり、探し物を見つけたりできるようになったはずよ。エリート人事のわたしの手腕に、涙を流して感謝しなさい!」


俺は立ち上がり、自分の両手を見つめた。


探索強化。勇者といえば『聖剣の輝き』とか『超弩級の爆裂魔法』だろう。なぜよりにもよって『索敵』なのか。魔王軍の残党相手にかくれんぼでもしろというのか。


「……なあ、これ、攻撃力とかは上がってないのか?」


「上がるわけないでしょ、補助なんだから。索敵範囲が広がるだけよ」


「じゃあ、仮に強力なモンスターを発見したとして、俺はどうすればいいんだ?」


「いち早く察知して、全力で逃げるのよ! 生存率がグッと上がるわね、素晴らしい!」


「逃げる前提じゃねえか! 勇者のスキルとして終わってんだろ!」


俺は激しくツッコミを入れた。が、リリはどこ吹く風で「ふふん」と鼻を鳴らしている。


「まあ、ありがたく思いなさい。わたしは契約魔法のプロフェッショナル。人と力とを、結ぶ側の存在なんだから」


結ぶ側――その言い方に、俺は妙な引っかかりを覚えた。「授ける」でも「与える」でもない、「結ぶ」。それはまるで、自分自身は力の出どころではない、とでも言っているかのようだった。


だが、それより何より、俺は自分の心境の妙な変化に気づいていた。この女の言うことを、なぜか「まあ、聞いてやってもいいか」と思える。あれほど胡散臭いと思っていたのに、逆らう理由がすっと消えていくのだ。


「……なあ。お前、俺になんか変な洗脳術でも使ってないか?」


「ふっ。失礼ね。これはわたしの溢れ出る『人徳』のなせる技よ」


こんなスッカラカンの女の人徳でこんな現象が起きるか、と思ったが、口には出さなかった。人を安心させるのが上手い種族なのだろう。サキュバスか何かで。


「まあいいわ。文句があるなら契約破棄してもいいのよ? もちろん、前借りの話もナシになるけど」


「くっ……! 足元を見やがって……!」


俺はギリッと歯を食いしばった。そうだ、俺にはギルドへの莫大な借金がある。ここで無職に戻れば、待っているのは借金取りに追われるホームレス生活だ。プライドも勇者としての尊厳も、このポンコツサキュバスに売り渡すしかない。


「よし、契約も無事に済んだことだし、まずは仕事に取り掛かってもらうわよ」


「おい、ちょっと待て。仕事の前に、労働環境の確認だ。俺は今日からここに住み込みで働くんだろ? 部屋と、あと飯と水はどうなってるんだ」


「部屋は離れの社宅を使っていいわ。飯は……まあ、自炊ね」


「百歩譲って自炊はいい。食材はどこにある?」


「ないわよ」


「ないのかよ!」


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