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魔王軍倒産しました。〜領地は絶賛再建中・勇者は絶賛就職中〜  作者: 瀬大
第3話 マオリョー、火力調達します
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マオリョー、火力調達します⑫ 焼いたるわ(ちょっとだけ)

「しゃーないな! ほな、ちょっとだけ焼いたるわ!」


ゼルが手のひらから、小さなバーナーのような炎を出し、芋を炙り始める。


ジリジリと芋の表面が焼け、微かに香ばしい匂いが漂ってきた。


「おおっ……! いい匂いだ! 素晴らしい! これぞ文化的な食事!」


俺はヨダレを垂らしながらその様子を見つめていたが、五分経っても十分経っても、芋は中まで火が通る気配がない。ゼルの火力が弱すぎるのだ。


「おいゼル! 遅いぞ! もっと火力を上げろ! そんなチロチロした火じゃ、明日になっても焼けねえよ!」


「アホか! 焼き芋はじっくり中まで火を通すもんやろ! 急に火力上げたら表面だけ焦げてまうわ!」


「知るか! 俺は今すぐ食いたいんだよ! 表面さえ焼けりゃ中は半生でも生でもなんだっていい!」

俺は頭を抱えた。

「腹に入れば全部同じカロリーだ! 全開で焼け! マックスパワーだ!」


俺の食い意地と打算が、完全に理性を吹き飛ばしていた。


「ほんまにええんやな!? 焦げても知らんぞ!」


「いいからやれ! 早く! 早く俺に温かい飯を食わせろおおおおお!」


「しゃーないな! ほな、いくで! 本気の百分の一くらいの火力やあああ!!」


ゴオオオオオオオオッッッ!!


ゼルの手から、先ほどとは比べ物にならないほどの極太の火柱が噴射された。


それは一瞬にして魔芋を包み込み、凄まじい熱量で水分を完全に蒸発させ、細胞レベルまで焼き尽くしていく。


「うおおおおおおおおっ!? 熱い熱い熱い! ちょ、おまっ、やりすぎだバカああああああ!!」


俺は熱波に耐えきれず、芋を放り投げて床を転げ回った。


「あんたがもっと火力出せ言うたんやろが!!」


ゼルが火を止めると、中庭の石畳の上には、コロンと小さな黒い物体が転がっていた。


それはもはや芋ではない。原形を一切留めていない、完全なる『消し炭』だった。


「俺の! 俺の唯一の食料がああああああああ!!!」


俺は膝から崩れ落ち、その消し炭を両手で掬い上げて天を仰いだ。


「炭だ! 完全に炭じゃねえか! こんなもん食ったら胃壁がヤスリがけされるわ! お前、加減ってものを知らねえのかこのクソトカゲ!」


「だから言うたやろが! 焦げても知らんって! おっちゃんが急かすからアカンねん!」


「おっちゃん言うな! ああクソッ、俺の特製スイーツが……俺の生存権が……!」


俺が炭を握りしめて号泣していると、背後からスッと、冷たい影が差した。


「……ふふっ。可哀想に。勇者様、また不浄なものを生み出してしまったんですね」


ミィナが、完璧な微笑みを浮かべながら俺の隣にしゃがみ込んだ。


「待て。お前、何をする気だ。俺から離れろ」


「……そんな真っ黒に焦げた炭なんて、体に悪いですから」

ミィナはうっとりと目を細めた。

「わたしが綺麗に、無に還してさしあげますね。……『聖なる浄化きれいきれい』」

「……ふふっ」


「またきれいきれいかよ! やめろおおおおおお!!」

俺は指を突きつけた。

「炭でもかじればミネラルくらいは摂れるかもしれないだろ!」

「俺の最後のカロリー源を消すなああああ!!」


ポンッ。


俺の手のひらで、消し炭が美しい光の粒子となって、完全に水蒸気へと消え去った。


「……ふふっ。手も綺麗になりましたね。これで安心です」


「俺の胃袋は一生安心できねえええええええ!!!」


中庭に、俺の血を吐くような絶叫が木霊した。


隣では、リリが「ふふん、これで火の確保は完璧ね! わたしのマネジメント能力の賜物よ!」と的外れなドヤ顔をしている。


俺は、完全に空っぽになった両手を見つめながら、乾いた笑いを漏らすしかなかった。


確かに、ゼルと契約したことで、マオリョーに火は戻った。


城の暖炉にも、厨房のコンロにも、いつでも火を入れることができるだろう。


だが。


俺の腹を満たす飯が、戻るとは誰も言っていない。


「……ああっ……あったけぇ……」


俺は、ゼルが放った余熱で暖かくなった中庭の石畳に寝転がりながら、虚ろな目で呟いた。


「……ぴぃ……」


気づけば、いつの間にかぴぃも俺の隣に来て、ゼルの余熱で温まった石畳にぴったりと体を押しつけていた。この鶏、寒いのが本当に嫌いらしい。


温度だけ、上がった。


本日の収支。


収入:火力供給の契約魔法(手加減という概念は別売り)。


支出:着替え、魔芋、塔の屋根、そして俺の前髪。


差し引き――今日も見事な、大赤字。


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