マオリョー、火力調達します⑪ 火は、戻った
相手は純真無垢な食いしん坊のガキ。甘い言葉で釣ってしまえば、俺専属の便利なコンロとして一生こき使える!
「おいゼル、よく聞け」
俺は、いかにも胡散臭い詐欺師のような笑みを浮かべて、ゼルの肩にポンと手を置いた。
「俺はな、異世界……じゃなくて、遠い遠い東の国から来た凄腕の料理人なんだ」
ゼルは腹を鳴らした。
「お前が俺と契約して火を出してくれれば、毎日三食、社長のショートケーキなんか目じゃないくらいの『最高に甘くて熱々の特製スイーツ』を作ってやるぜ」
「ほ、ほんまか!? ケーキより美味いんか!?」
「ああ、本当だ(大嘘だ)。だから、四の五の言わずにさっさとこのポンコツ人事と契約しろ」
俺はツッコんだ。
「そうすれば、お前の腹は毎日満たされる。悪くない取引だろ?」
「……おっちゃん、約束やで! もし嘘ついたら、丸焦げにしたるからな!」
「誰がおっちゃんだ! 俺はまだピチピチの十代……いや、二十代だ! まあいい、リリ、さっさとやれ!」
俺の打算とハッタリが功を奏し、ゼルはついに折れた。
リリが嬉々として前に出る。
「ふっ、いい機会だから教えてあげる。今のゼルはね、ただ火を吐けるだけの暴れん坊よ」
リリは目を泳がせた。
「手加減もできない、ただの野良の火」
「でもわたしが契約魔法で繋げば、その火が"会社の火力供給"になるの」
「暖炉も厨房も、ちゃんと使える火に化けるってわけ。これぞ人事の腕の見せどころね」
「さっきから思ってたが、お前の説明、いちいち偉そうな割に的を射てんのが腹立つな……」
「いくわよゼル! マオリョー人事担当リリの名において、あなたと契約魔法を結ぶわ! 結びなさい、火力供給の契約魔法!」
リリが詠唱すると、彼女の指先から紅蓮の光が弾け、ゼルの小さな体を包み込んだ。
ゼルの金色の瞳の奥に、ドラゴンスリットの紋様が浮かび上がる。リリの瞳孔にも同じ刹那、紅蓮の竜鱗紋様がちらりと映り込んだ。
「おおっ……! なんやこれ、体の奥底から力が湧いてくるで! 力が……力が戻ったわ!」
ゼルが両手でガッツポーズを作ると、その手からボッ!と勢いよく炎が吹き上がった。
そして、ふと、その炎を見つめたまま、ゼルがぽつりと呟いた。
「……俺な、ずっと一人で、社長が帰ってくるのを待っとったんや。でも、待つだけの火は、なんや、ちっとも温かなかってん」
「…………」
「久しぶりやわ。誰かのために火ぃ出すの。……悪ないな、こういうのも」
炎の向こうのゼルの横顔が、ほんの少しだけ、子供みたいに笑った気がした。
「やったぜ! これで火は確保した! 温かい部屋と温かい飯が俺のものだ!」
俺がはしゃいだ声を上げると、ゼルは「現金なやっちゃな」と肩をすくめた。
「ふふん、どう? わたしの完璧なネゴシエイションッ。これぞエリート人事のクロォージングよ!」
「また発音だけネイティブにしやがった……。ネゴもクロージングも、契約させたのは俺のハッタリだろうが!」
俺は中庭の隅に転がっていた、ソフトボール大の泥だらけの芋――昨日の探索の時に偶然見つけておいた『野生の魔芋』を拾い上げて、ゼルの前に差し出した。
「よしゼル、契約記念の初仕事だ! お前のその力で、この芋を最高の焼き芋にしてくれ!」
「これが俺の言っていた『特製スイーツ』の第一弾だ!」
「なんやこれ、ただの泥だらけの石ころちゃうんか? ほんまに美味いんか?」
「美味いに決まってんだろ! いいから早く焼け! 俺は丸二日まともな飯を食ってないんだ! 胃袋が背中にくっつきそうなんだよ!」




