マオリョー、火力調達します⑩ ケーキより、いいもの
マオリョー、火力調達します⑩ ケーキより、いいもの
中庭の石畳の上で、俺は泥まみれのまま力尽きた。隣ではゼルが白目を剥いて伸びている。
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「……う、ううっ……社長ぉ……俺の、特大イチゴの乗った特製ショートケーキ……」
水浸しの中庭。泥と瓦礫が散乱する中、白目を剥いて倒れていたゼルが、うわ言を漏らしながらむくりと起き上がった。
「まだ言ってんのかお前は! どんだけケーキに執着してんだよ!」
俺は、濡れた布の服を絞りながら怒鳴りつけた。
「お前が癇癪を起こして塔を全焼させようとしたせいで、俺たちは危うくローストチキンからの熱湯コマーシャルでトリプルコンボの死を迎えるところだったんだぞ!」
「反省しろこのトカゲのガキ!」
「だーれーがーガキやねん! 俺はマオリョーの執行役員やぞ!」
ゼルは涙目で八重歯を剥き出しにしてキャンキャンと吠え返してきた。
「社長が帰ってくるまで火はつけへんって誓ったんや! お前みたいな貧乏くさい新入りの詐欺師に騙されるところやったわ!」
「貧乏くさい言うな! 誰のせいで俺の全財産が水蒸気になったと思ってんだ!」
俺は声を張り上げた。
「……おい、アホ精霊」
「お前の過剰な浄化魔法のせいで俺は今、ガチの文無しでカロリーゼロ状態なんだぞ」
「どう落とし前つけてくれんだ」
俺が横を睨みつけると、深海色の髪を揺らす水の精霊、ミィナが、相変わらずの静かで完璧な微笑みを浮かべて立っていた。
「……ふふっ。落とし前だなんて、勇者様は言葉が乱暴ですね」
ミィナは静かに微笑んだ。
「わたしは、勇者様が不浄なスライムのフンから感染症にかからないように、健気に『環境整備』をしてさしあげただけですよ?」
「勇者様の命を救ったのですから、むしろ感謝していただきたいくらいです」
「感謝する要素が1ミリもねえよ!」
俺は天を仰いだ。
「お前のその悪意ゼロの善意が、一番俺のライフを削り取ってんだよ!」
「頼むからもう二度と俺の私物に触れるな! いや、視界に入れるな!」
「ちょっと! 新入社員が元社員にパワハラしないでってさっきも言ったでしょ!」
リリは胸を反らした。
「エリート人事のわたしが、この劣悪な職場環境をどうにかしてあげるわ!」
「何もできねえくせに偉そうにすんなポンコツサキュバス! そんなことより、まず契約だ!」
俺は半目になった。
「こいつの火力がなきゃ、俺たちは凍え死ぬか餓死するかの二択なんだよ!」
「さっさとこいつを正式な社員にして、まともに働かせろ!」
俺がリリの襟首を掴んで揺さぶると、リリは丸メガネをずらしながらドヤ顔を作った。
「ふふん、エリートのわたしに任せなさい。ゼル!」
リリは丸メガネを押し上げた。
「あなた、マオリョーの執行役員としてのプライドはないの?」
「このまま社長を待ってても、ケーキどころかその辺の雑草しか食べるものがなくなるわよ!」
「わたしと契約してアライアンスを結べば、毎日美味しいものが食べられるわ!」
「アライアンスの意味わかってんのか? 言ってみろ」
「ふっ」
ルシフは前髪をかき上げた。
「アライアンスっていうのはね……こう、ぐっと手を組んで、がっちり、ぐいっとなる感じよ」
「みんなで力を合わせて、ぐいーっと前に進むってこと!」
「擬音でしか説明してねえ! でも力を合わせるは合ってるから何も言い返せねえ!」
だが、ゼルはリリの言葉にピクリと反応した。
「……美味しいもの? 社長のショートケーキより美味いんか?」
「ええっ? そ、それはもちろん……!」リリが言葉に詰まる。
ここだ。俺のセコい打算のスイッチがカチッと入った。




