マオリョー、火力調達します⑨ ガキじゃ、ない
「……ふふっ。アイシス様への愛と忠誠心の量です」
「重い! 忠誠心が重すぎて物理的な質量を伴ってんぞ!!」
ズッッッッッッバァァァァァァァァァン!!!!!
そして、その巨大な水の塊が、燃え盛る塔の最上階に向かって、滝のように一気に落下してきた。
「ぎゃあああああああああ!?」
「うわあああああん! 溺れるぅぅぅ!」
「なんやこれええええええ!?」
俺、リリ、そしてゼルの悲鳴が重なる。
圧倒的な水量が、ゼルの放っていた紅蓮の炎を強引に押し潰し、飲み込んでいく。
炎と水が激突し、凄まじい水蒸気爆発が発生した。
「あっつ! 痛っ! ギャアアア! ただの水没じゃねえ! 炎と混ざって超高温の熱湯になってるぞ!! 大規模な熱湯コマーシャルかよ!!」
「きゃあああ! エリート人事が茹で上がっちゃうぅぅぅ! これは完全に過重労働よぉぉ!」
「俺の! 俺のお菓子が水浸しやああああ!!」
塔の最上階は、一瞬にして『火災現場』から『煮えたぎる大洪水現場』へとクラスチェンジを果たした。
濁流と化した熱湯が、俺たち三人を容赦なく洗濯機のようにぐるぐるとかき回す。
息ができない。熱い。そして苦しい。
俺は濁流の中で必死にもがきながら、ふと視界の端に、俺の私物が入った麻袋がプカプカと浮いているのを発見した。
あれは! ギルドで前借りした金で買った、最低限の着替えと、さっき森で拾ったスライムのフン(まだワンチャン売れると信じている)が入った袋!
「俺の! 俺の全財産があああああ!」
俺は熱湯の中で必死に手を伸ばし、その袋を掴もうとした。
だが、その時。
「……ああっ、いけません勇者様!」
ミィナはうっとりと目を細めた。
「その袋の中身、なんだか不浄なオーラ(スライムのフン)が漂っています!」
「一緒に浄化しておきますね! 『聖なる浄化』!」
「やめろおおおおおお!!」
ミィナの過剰な善意の光が、俺の麻袋を包み込む。
ボンッ! という音とともに、麻袋の中身はフンも着替えもまとめて、綺麗な水蒸気となって完全に消滅した。
「……ふふっ。綺麗になりましたね」
「俺の着替えがあああああああ!!」
ザバーーーン!!
そしてついに、塔の最上階の窓と壁が水圧に耐えきれず崩壊。
俺たちは、濁流とともに塔の外、魔王城の中庭へと、文字通り滝のように吐き出されたのである。
ドシャァァァァァァッ!!
「……ぐふっ、げほっ、ごほっ……!!」
中庭の石畳の上で、俺は泥と熱湯にまみれながら、ピクピクと痙攣していた。
全身に負った軽い火傷。
熱湯に浸かったことによる極度の疲労。
そして、ミィナの過剰浄化によって失われた、俺の最後の私物たち。
「……ううっ……。わたしの、わたしのエリートな名声が……泥だらけ……」
隣では、リリが完全に白目を剥いて伸びている。
「……け、ケーキ……俺の、ケーキ……」
ゼルもまた、大洪水のショックと魔力切れで、目を回して倒れていた。
そして、その惨状の中心で。
ミィナだけが、一滴の汗もかかず、服も濡らさず、完璧な微笑みを浮かべて立っていた。
「……ふふっ。皆様、お疲れ様でした。見事に鎮火しましたね」
ミィナは頬に手を当てた。
「これでアイシス様の氷も安泰です」
「……わたし、また少し、マオリョーの役に立てましたでしょうか?」
俺は、焦げてズタボロになり、さらに熱湯で縮んだ布の服のまま、ゆっくりと天を仰いだ。
火力は、過剰に供給され。
城は、半ば全焼し。
そして、洪水によって俺の所持品は全損した。
「……おい、ポンコツ人事」
「……な、なによ……」




