マオリョー、火力調達します⑧ 忠誠心が、重い
「ぎゃあああああああああああああ!? 火柱が三倍くらいデカくなったぞおおおお!!?」
俺は悲鳴を上げて床を転げ回った。
ゼルの足元から、文字通り爆発的な炎が巻き起こり、塔の最上階を一瞬にして灼熱のオーブンへと変えたのだ。
「お、おいポンコツ! お前今、何を投げた! 水じゃないのか!?」
「えっ? ええっと……ツボに『最高級オリーブオイル』って書いてあったような……」
「油じゃねえかあああああああ!! なんで火事の現場で油を投げんだよおおおお!!」
俺はツッコんだ。
「お前は馬鹿か!? 幼稚園児でも火に油注いじゃダメなことくらい知ってんぞ!!」
「だ、だって液体ならなんでも火が消えると思ったのよぉぉぉ! 燃焼のメカニズムなんて人事の管轄外だわぁぁ!」
「管轄外で済まされるか!」
俺は頭を抱えた。
「お前、魔法が使えないからって素のドジで事態を悪化させてどうすんだよ!」
「完全に厄災の化身じゃねえか!!」
火に油を注がれたゼルは、さらにテンションをぶち上げている。
「おおっ! なんや知らんが火力が上がったわ! ええぞ! もっと燃やしたる! ファイヤーやあああ!」
「ファイヤーじゃねえ! いい加減にしろこのクソトカゲ!」
俺は指を突きつけた。
「俺の髪の毛からついに焦げ臭い匂いがし始めたぞ! 誰か! 誰か助けてくれ! 消防車!」
「異世界の消防車ぁぁぁ!」
俺がパニックになって喉が千切れるほど絶叫した、まさにその時だった。
「……ふふっ。大変ですね、勇者様」
ミィナが、完璧な微笑みを浮かべたまま静かに一歩前に出た。
「笑い事じゃねえ! 見ての通りだ! 頼む、お前の水魔法でちょっとだけ、本当にちょっとだけでいいから、この火を弱めてくれ!」
俺は藁にもすがる思いでミィナに叫んだ。
ミィナは水の精霊だ。こいつの力なら、この炎を相殺できるかもしれない。
だが、ミィナは口元に手を当て、少し困ったような、しかし相変わらずの静かな笑顔で小首を傾げた。
「……それは構いませんけれど。でも、ただ火を消すだけでは根本的な解決になりませんよね?」
「は?」
ミィナは、燃え盛る炎をじっと見つめ、その瞳に静かな、しかし確固たる『重い決意の光』を宿した。
「……考えてみてください」
ミィナは頬に手を当てた。
「もしこの火事の熱気が、下の階まで伝わってしまったらどうなるでしょう」
「……アイシス様のお部屋の前の、あの大切な美しい氷が、溶けてしまうかもしれません」
「おい、待て。お前、何を考えてる」
俺の危険察知センサーが、ゼルの炎とは別の、もっと恐ろしい厄災の到来を告げている。
「……決まっています。アイシス様の氷を守るために」
ミィナは静かに微笑んだ。
「そして、この城を不浄な炎から守るために……」
「わたしが、この塔ごと、いえ、この城の半分を、清らかな水で完全に『冷却・浄化』してさしあげます……!」
「ふふっ、アイシス様、きっと喜んでくださいますね……!」
「やめろおおおおおおおおおお!!!」
俺は炎を掻き分けてミィナに飛びかかろうとしたが、遅かった。
「……わたしはこれを『清浄なる大瀑布』と呼んでいます。……ふふっ」
「またそのひらがなのやつかよ! 火事の現場で説明すんな! やめろおおおおおおおおおお!!!」
ミィナが両手を静かに、しかし力強く天へと掲げる。
次の瞬間、塔の天井に空いた穴の上空に、巨大な湖を丸ごとひっくり返したかのような、超質量の水の塊が出現した。
「ウソだろおい! さっき廊下を水没させた時の比じゃねえぞ! どんだけ水量あんだよ!」




