マオリョー、火力調達します⑦ 人事は、止められない
「おいポンコツ人事! 壁の隅っこで体育座りしてガタガタ震えてないで、お前もなんとかしろ!」
俺は頭を抱えた。
「人事なら社員の暴走を止めるのが仕事だろうが!」
俺は、燃え盛る瓦礫の陰で頭を抱えているリリに向かって怒鳴りつけた。
「む、無理よぉぉぉ! わたしは契約魔法のプロであって、猛獣使いじゃないのよぉぉ!」
「お前、昨日『わたしがフル変身して束ねてあげる!』とかドヤ顔で言ってただろ!」
俺は指を突きつけた。
「あのよくわからん神々しい光のやつで、こいつの力を無理やり抑え込めよ!」
俺の叫びに、リリは涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を上げた。
「できないわよ! バカなの!?」
「あんた本当にマオリョーのシステムを1ミリも理解してないわね!」
「ゼルはまだ、わたしと『契約魔法』を結んでない未契約状態なのよ!」
「それがどうした! 未契約だろうがなんだろうが、気合いでなんとかしろ!」
「だから! わたしが力を『束ねる』ことができるのは、契約を結んだ相手だけなの!」
リリは目を泳がせた。
「未契約の相手の力は束ねられないし、当然、火の補助(線香花火レベル)だって引き出せないのよ!」
「今のわたしは、ただの燃えやすいお洋服を着た一般サキュバスに過ぎないわぁぁぁ!」
「じゃあ契約してるミィナはどうなんだよ!」
俺は声を張り上げた。
「あいつだって昨日契約したのに好き放題に城を水浸しにしてんじゃねえか!」
「契約したら勝手な魔法を使えないように制限かかるんじゃなかったのかよ!」
「はぁ!? 何言ってんの!」
「契約魔法は力を『束ねる』ためのもので、相手を縛ったり魔法を禁止したりする魔法じゃないわよ!」
「あんた、まさか入社の時からずっとそんな勘違いしてたの!?」
「なん……だと……。じゃあ俺は何のために、こいつらを社員にしたんだ……」
俺は絶望に打ちひしがれた。契約しようがしまいが、こいつらの暴走は止められないという残酷な事実を、業火の中で思い知らされたのである。
「ふざけんなああああ!」
俺は天を仰いだ。
「なんでこんな肝心な時に、システム上の制約で完全に無能化してんだよ!」
「役に立たねえなこの女神(自称)!!」
「女神なんて一言も言ってないわよ! わたしは仕事ができるエリート人事よ!」
リリは得意げに鼻を鳴らした。
「うわああああん、誰か助けてぇぇぇ! こんな炎上案件、明らかにわたしの管轄外なのにぃぃ!」
「助けてじゃねえ! エリートなら物理的に動け!」
俺は半目になった。
「そこに転がってる消火器みたいな魔道具でも、水が入ったバケツでもいいから持ってこい!」
「俺はこの火の玉トカゲのヘイトを稼いで逃げるのに手一杯なんだよ!」
俺が瓦礫の周りをぐるぐると逃げ回りながら指示を出すと、リリは「わ、わかったわよ!」と立ち上がった。
「物理ね! 物理的に火を消せばいいのね! 任せなさい! エリートのわたしが、この大火災を鎮火させてみせるわ!」
リリは燃え盛る部屋の隅へと走り出し、何か大きな壺のようなものを抱え上げた。
「ほら、勇者! わたしが見つけてきたわ! 厨房から持ち出されてたみたいだけど、この中に入ってる液体をぶっかければ――」
「よし、でかした! それをゼルの足元に投げつけろ! 少しでも火の勢いが弱まれば……!」
「いくわよぉぉぉ! そぉーれっ!!」
リリが、気合いの入った掛け声とともに、その壺をゼルに向かって全力で放り投げた。
パリーンッ!!
壺がゼルの足元で砕け散り、中から黄色っぽいドロリとした液体がぶち撒けられる。
次の瞬間。
ボワァァァァァァッッッ!!!




