マオリョー、火力調達します⑤ とーさんって、誰だ
「ちょっと、勇者! ゼルをあんまり刺激しないでよ! この子、怒らせると本当に手がつけられないんだから!」
「……ふふっ。大丈夫ですよ、勇者様。もし黒焦げの灰になっても、わたしが綺麗に浄化して、お骨だけは拾ってあげますからね」
「だからお前のその慈愛に満ちた殺意が一番怖いんだよ! 骨しか残らねえ前提で励ますな!」
俺はミィナを押し除け、再びゼルへと向き直った。
……落ち着け、俺。
相手は確かに災害級のバケモノだが、中身は完全に幼稚園児だ。
『ケーキのために待っている』? だったら話は簡単じゃないか。大人の汚い詭弁と屁理屈で丸め込んでしまえばいい。ここでこいつを言いくるめれば、俺は暖かな寝床と温かいスープをゲットできるんだ。
俺の脳内で、再びセコい打算のスイッチがカチッと音を立てて入った。
「……なあ、ゼルくんよ。お兄さんが、現実という名の残酷な真実を教えてやろう」
俺は、できるだけ大人びた、諭すような声色を作って一歩前に出た。
「いいか。その社長ってのはな、借金取りから逃げるために夜逃げしたんだ」
俺は声を落とした。
「つまり『倒産』だ。倒産ってのは、もう会社に一銭もお金がないってことだ。わかるか?」
「……とーさん? なんやそれ。美味しいんか?」
「美味しくねえよ、胃に穴が開くくらい激マズだよ!」
俺は声を張り上げた。
「つまりな、その社長はもう二度と帰ってこないし、ケーキを買うお金すら持ってないってことだ!」
「お前は体のいい嘘をつかれて騙されたんだよ、このお人好しのトカゲのガキが!」
「ああっ!? バカ勇者! 何言ってんのよ! それ一番言っちゃダメなやつじゃない!」
リリが悲鳴を上げたが、俺はもう止まらない。相手がガキなら、現実を突きつけて上に立つのが一番手っ取り早いのだ。
ゼルは目を見開き、手に持っていた高級そうなお菓子をポロッと床に落とした。
「……しゃちょうが、帰ってこーへん……? ケーキ、ない……?」
「そうだ! だからいつまでもスネてないで、さっさと火を出せ!」
「お前が今やるべきなのは、俺みたいな優秀で大人な新入社員の言うことを聞いて、暖炉に火をつけることだ!」
「ほら、ガキは大人しく大人の言うことを聞いとけっての!」
俺はさらに畳み掛けた。
「今すぐ火を出せば、俺が初任給をもらった時に、その辺の村のパン屋で安いカップケーキくらいなら買ってきてやるからよ!」
俺は天を仰いだ。
「な? 俺の持ってる泥水ゼリーよりはマシだろ?」
俺が勝ち誇った顔で胸を張った、その瞬間だった。
俯いていたゼルの周囲の空気が、急激に、異常なほどの熱を持ち始めた。
足元の石畳が、パキッ、パキィッ!と嫌な音を立ててひび割れ、その隙間からドロドロに溶けたマグマのような赤い光が漏れ出す。
……あれ?
なんか、さっきより数倍ヤバい気配がするんだが。
俺の『探索強化』の危険度アラートが、城内のノイズをぶち抜いて、頭の中でぶっ壊れた火災報知器のように鳴り響き始めた。視界のレーダーが真っ赤から漆黒へと変わっていく。城内なのに読めてしまう。本当にヤバい。
「……誰が、ガキやねん」
ゼルが、ゆっくりと顔を上げた。
その金色の瞳は、完全に理性を失い、純粋な怒りと破壊衝動だけで爛々と燃え盛っていた。
「社長が嘘つくわけないやろ!! 俺を騙すなや、このクソボケ新入りがあああああああ!!!」
「ひぃぃぃぃぃ!? や、やべえ! 完全に特大の地雷踏み抜いた!」
暴走スイッチ、完全に入った。
「お菓子を取り上げられる(落とした)」「子供扱いされる(ガキ扱い)」「挑発される」。




