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魔王軍倒産しました。〜領地は絶賛再建中・勇者は絶賛就職中〜  作者: 瀬大
第3話 マオリョー、火力調達します
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マオリョー、火力調達します④ 土下座の姿勢が、美しい

「お前は黙ってろ! 汗と冷や汗で俺の背中をビチャビチャにすんな!」

俺はツッコんだ。

「さっきまで『労働環境の改善を要求するぅ』とか泣き言言ってたくせに、便乗して上司面してんじゃねえ!」


俺が背後を蹴り飛ばそうとした時、今度はミィナが、相変わらずの静かな微笑みを浮かべながらスッと横に並んできた。


「……ふふっ。でも勇者様、土下座の姿勢がとても美しいですね」

ミィナはうっとりと目を細めた。

「まるでその道のプロのようです」

「アイシス様にお詫びする時も、その姿勢ならきっと、氷漬けにされるまでの時間が三秒くらい延びるかもしれませんよ」


「延びるのたった三秒かよ! 全然救いがねえな! 今はアイシスの話は関係ねえだろ、黙ってろ歩く水害!」


俺は深呼吸をして、ジリジリと肌を焼く熱気を無視しながら、ゆっくりと顔を上げた。


「で、なんだ。ゼル……さん、あんた、マオリョーの火力担当の執行役員なんだろ?」


「せや! 俺の炎がなきゃ、この城の厨房も、鍛冶場も、風呂の湯沸かしも、全部動かへんのやで! 偉いやろ!」


「ああ、ものすごく偉い。大したもんだ」

俺は頭を抱えた。

「……だけどよ、なんでそんなに偉いあんたが、わざわざ火を止めてこんな塔に引きこもってんだよ」

「今、城の中は永久凍土みたいになってて死ぬほど寒くて、飯も生キノコしか食えねえんだぞ」

「あんたがストライキしてるせいで、俺の命が削られてんだよ」


俺が恨み節全開で訴えると、ゼルは「ふいっ」とそっぽを向き、手に持っていたお菓子をボリボリと齧り始めた。


「……知らんわ! 俺は社長と約束したんや! 社長が帰ってくるまで、城の火は絶対につけへんってな!」


「……社長と約束? なんだそりゃ」

ゼルは牙を剥いた。

「あんたほどのバケモ……いや、実力者が、なんであの夜逃げ社長の言いつけをそんなに頑なに守ってんだ?」


俺が首を傾げると、ゼルは少しだけ自慢げに、だがどこか寂しそうに口を開いた。


「社長が最後に出かける時にな、俺の頭撫でて言うたんや」

ゼルは腹を鳴らした。

「『ゼル、お前が火を出したら何を燃やすかわからんから、俺がおらん間は城の火を全部落として、ええ子でお留守番しとけ」

「もし約束守れたら、帰ってきた時に、世界で一番甘くてでっかい特製ショートケーキを丸ごと一個、買うてきたる!」

「』ってな!」


「……………………」


「せやから! 俺はええ子で待っとるんや! ケーキのために! 誰が何と言おうと、社長が帰ってくるまでは絶対に火は出さへんのや!」


「……………………は?」


俺の脳みそが、そのあまりにもピュアな理由を処理するのに数秒を要した。


圧倒的な魔力量。探索の契約魔法が警告を発するほどの災害級の強さ。古龍の幼体であり、マオリョーの最高幹部の一人。


その彼が、魔王城のライフラインを完全にストップさせ、城全体を機能不全に陥らせている、その絶対的かつ譲れない理由。それが。


「……ケーキ、丸ごと一個?」


「おお! 世界で一番甘いやつやで! イチゴもいーっぱい乗っとるんや!」


「理由が子供すぎて泣けてくるわ!!」


俺はたまらず立ち上がり、思い切りツッコミを放った。


「お前、自分がどれだけヤバい力持ってるか自覚してんのか!?」

俺は指を突きつけた。

「その強大な力を持て余して『ショートケーキのために火をつけません』って、どんだけ精神年齢低いんだよ!」

「悪の魔王軍の幹部としての威厳がゼロじゃねえか! ただの食いしん坊の園児だろそれ!」


「やかましい! 威厳とか知らんわ! 俺はケーキが食いたいんや!」


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