マオリョー、火力調達します③ 社長と、間違えられて
「お兄さん特製の甘いゼリ――」
「こんなん、社長がいつもくれてた特製マカロンに比べたら、ただの泥水やんけ!! 人舐めとんのかコラー!!」
「うおっ!?」
次の瞬間。
カッ!!! と、ゼルの小さな体から、目も開けられないほどの強烈な紅蓮の光と、爆発的な熱波が放たれた。
「あっつあああああああああ!!?」
俺は悲鳴を上げて後ろに飛び退いた。
熱い。ただの熱気じゃない。肌を直接焼かれるような、圧倒的な質量の『殺意を伴った炎の魔力』だ。
俺の『探索強化』の契約魔法が、ぼんやりとした城内のノイズの中から、それでも明確に「ヤバい」という信号を発し始めた。
城内なのにハッキリ読めてしまう。つまり、それだけ桁外れだということだ。
「お、おい嘘だろ……! なんだこの魔力量は……! ただのガキじゃないのかよ!」
「だから古龍の幼体だって言ったじゃない! 種族的には最強クラスだって!」
「あんたが激安ゼリーなんかで釣ろうとするから怒らせたのよ!」
「……ふふっ。勇者様、燃えカスになったら、わたしが綺麗に浄化してお骨を拾ってあげますから安心してくださいね」
「安心できる要素がゼロだわ!!」
ゼルは、両手にお菓子をギュッと握りしめたまま、金色の瞳を爛々と輝かせて俺を睨み下ろしている。
その小さな体の背後に、巨大な炎の龍の幻影が揺らめいて見えたのは、決して気のせいではなかった。
「お前みたいなセコい顔した奴の持ってくる泥水ゼリーなんか、誰が食うか!」
ゼルは腹を鳴らした。
「俺はな、社長が買ってきてくれる高級なお菓子しか食わんのや! 帰れ帰れ!」
「燃やしたろかワレ!!」
「ひぃぃぃぃぃっ! す、すんません! 調子に乗りました! 泥水ゼリーで釣ろうとしてマジですんません!!」
俺は、熱波に耐えきれず、たまらず床に両手をついて土下座の姿勢をとった。
打算は一瞬で打ち砕かれた。格が違う。こいつは、怒らせてはいけない本物の『バケモノ』だ。
俺の異世界就職活動は、凍死の危機から一転して、今度は焼死の危機へと直面していた。
最強の執行役員は、高級なお菓子を両手に握って離さないまま、俺という底辺新入社員を見下ろして鼻息を荒くしているのだった。
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「……ひぃぃぃぃぃっ! す、すんません! マジですんません! 俺の認識が砂糖より甘かったです!」
塔の最上階。俺は、石造りの床に額を擦りつける勢いで、見事なスライディング土下座をキメていた。
目の前にいるのは、ダボダボの和風装束を着た、十歳くらいの小柄な子供。だが、その背後に幻影のように揺らめく巨大な龍のオーラと、部屋の酸素を焼き尽くすほどの超高熱の熱波は、こいつがただのガキではなく、災害級の力を持つバケモノであることをハッキリと証明していた。
「ふんっ! わかればええんや!」
「新入りの分際で、この執行役員様をスライムの体液固めたみたいな安物のゼリーで釣ろうやなんて、百年早いわ!」
「おっしゃる通りです!」
「泥水ゼリーは俺が後で泣きながら美味しくいただきますんで、頼むからその拳に溜まった物騒な火の玉はしまってください!」
「俺の初期装備の布の服がもう焦げ臭いんです!」
俺が必死に命乞いをしていると、背後に隠れていたポンコツ人事――リリが、俺の肩越しにひょっこりと顔を出した。
「そ、そうよ!」
リリは丸メガネを押し上げた。
「エリート人事のわたしでさえ手こずる相手を、激安ゼリーでどうにかしようなんて甘いのよ!」
「自分の無力さを反省しなさい、このポンコツ新入社員!」




