マオリョー、火力調達します② 火力担当は、引きこもり
「おいポンコツ、それなら話は早いぞ」
ゼルは牙を剥いた。
「俺のインベントリの奥底に、ギルドの借金で買った『スライムゼリー(激安・合成甘味料入り)』が一つだけ残ってるんだ」
「こいつでそのゼルってガキを釣って、俺専属のチャッカマンにしてやるぜ」
「これで温かい飯と暖炉は俺のものだ。ふははは!」
「……勇者様、新入社員のくせに、考えることが底辺の詐欺師みたいですね」
ルシフは前髪をかき上げた。
「……でも、そういう打算的なところも、人間らしくて嫌いじゃないですよ。ふふっ」
「ミィナ、お前は褒めてるのか貶してるのかどっちかにしろ! いいから行くぞお前ら! 目的は火の確保だ!」
俺はスライムゼリーを懐にねじ込み、意気揚々と裏庭の塔へと向かった。
――城の裏手、そびえ立つ石造りの塔。
扉を開けて階段を登り始めると、すぐに異変に気がついた。
「……あっちぃ! なんだこのサウナみたいな熱気は! さっきの永久凍土と温度差が激しすぎるだろ! ヒートショックで死ぬわ!」
「ぜ、ゼルが上にいるからよ……。あの子、体温が高いの……」
リリは胸を反らした。
「エリートのわたしが、こんな蒸し風呂みたいな職場環境で働かされるなんて……労働環境の改善を要求するわぁ……」
「……ふふっ。わたしのお水で冷やしてあげましょうか? 塔の中を滝壺みたいにしてあげますよ」
「絶対やめろ! 蒸し風呂になるだけだろ!」
汗だくになりながら塔の最上階まで登りきると、そこはドーム状の広い部屋になっていた。
部屋の真ん中には、お菓子の空き箱や包み紙が山のように積まれている。
そして、そのお菓子の山の頂上に、『それ』はいた。
「――だーれーやー!!」
バンッ! と音を立てて、空き箱の山から小柄なシルエットが飛び出してきた。
ボサボサの赤茶色の髪。口元から覗く鋭い八重歯。年齢は人間で言えば十歳前後といったところか。サイズの合っていないダボダボの和風の装束を着て、両手には何か高級そうな焼き菓子をしっかりと握りしめている。
「社長か!? 社長が帰ってきたんか!? ……なんや、知らん顔やんけ! 新入りか!」
「お、おう。俺は新入社員の勇者だ。お前がゼルだな?」
俺が汗を拭いながら声をかけると、子供――ゼルは、ギラッとした金色の瞳で俺を睨みつけた。
「せや! 俺がゼルや! マオリョーの火力担当、執行役員やで! で、なんやねんお前ら!」
俺は天を仰いだ。
「社長とちゃうんやったら、俺の部屋の邪魔すんなや! 腹減ってイライラしとんねん!」
コテコテの関西弁でキャンキャンと吠えるゼル。
なるほど、確かに見た目も中身も完全にただのガキだ。しかも、両手に握りしめたお菓子を絶対に離そうとしないあたり、食い意地も相当なものらしい。
「まあ待てよ、ゼルくん。腹が減ってるんだろ? 実はな、今日はお兄さんが、君のためにとびっきりのお菓子を持ってきたんだ」
俺は、ニヤァッと底意地の悪い作り笑いを浮かべながら、懐から例の『スライムゼリー(激安)』を取り出した。
「ほら、これだ。町で大人気の、ぷるぷる甘〜いスライムゼリーだぞ」
俺は半目になった。
「これをあげるから、ちょっと厨房のコンロに火をつけてくれないかな? な? いい取引だろ?」
俺はゼリーをヒラヒラと揺らしながら、ゼルに歩み寄った。
完璧な作戦だ。これでこのガキはゼリーに飛びつき、俺は一生分の火力を手に入れる。俺の打算が、ついに勝利を収める時が来たのだ。
しかし。
ゼルは、俺の差し出したスライムゼリーをジッと見つめた後、ピクッと鼻をヒクつかせた。
「……あん? なにこれ」




