マオリョー、火力調達します① 寒さで、死ねる
「……さっむ! なんだこのふざけた室温は! 息が真っ白じゃねえか!」
魔王城の大広間。ミィナの過剰な『お掃除』と、それにブチギレたアイシスのコンボによって生み出された見事な永久凍土の上で、俺はガタガタと全身を震わせながら絶叫した。
「うるさいわねぇ、新入社員。朝から大声出さないでよ。わたしは冷え性なんだから、あんたが騒ぐと余計に寒く感じるじゃない」
「お前が俺の背中にピッタリくっついて風除けにしてるからだろうが! 離れろポンコツ人事!」
俺はツッコんだ。
「俺の体温をこれ以上吸い取るな! ああもう、芯から冷える……っ!」
俺は身をよじってリリを引き剥がそうとしたが、彼女は「やだやだ! 離れたら死んじゃう!」とスッポンのようにしがみついて離れない。
その横では、元凶であるミィナが、相変わらずニコニコと静かな微笑みを浮かべていた。部屋の隅では、ぴぃが羽を丸めてガタガタと震えている。こいつまで凍土の被害者か。
「……ふふっ。でも、アイシス様の氷のおかげで、お部屋の空気がとっても澄んでいますよ」
ミィナは静かに微笑んだ。
「天然のクーラーみたいで快適ですね、勇者様」
「快適なわけあるかあああ!! お前が廊下を水没させたせいだろうが!」
俺は頭を抱えた。
「大体な、こんな極寒の中で食う朝飯が、なんで昨日森で拾ってきた『謎の青いキノコ(生)』なんだよ!」
「焼かねえと絶対腹壊すやつだろこれ!」
俺は、手に持った毒々しい青色のキノコを床に叩きつけた。
俺の唯一の非常食だった干し肉は、昨日このアホ精霊の過剰な浄化魔法によって完全消滅してしまったのだ。
「……あら? 勇者様、生で食べないんですか? わたしが浄化して無菌状態にしておきましたから、寄生虫の心配はゼロですよ?」
「菌の問題じゃねえ! カロリーと美味しさと温度の問題なんだよ!」
俺は指を突きつけた。
「寒い時は温かいスープとか、せめて焼いた肉を食わせろ!」
「この会社には火を出せる奴はいねえのか!」
「魔王軍なんだから一人くらい炎の使い手みたいなのがいるだろ!」
俺が怒鳴り散らすと、リリは俺の背中から顔をひょっこり出し、丸メガネをクイッと押し上げた。
「いるわよ、火力担当。執行役員のゼルが」
「いるなら早く言えよ! どこだそいつは!」
「城の裏手にある塔に引きこもってるわ」
「城の厨房のコンロとか、暖炉の火とか、熱源は全部あの子が管理してるのよ」
「今は魔王様がいなくなってスネてるから、火を止めてるみたいだけど」
「執行役員……。ってことは、あのアイシスと同格か」
俺は声を張り上げた。
「おい、またとんでもない性格破綻者なんじゃないだろうな?」
「『俺の炎で世界を焼き尽くしてやる』とか中二病こじらせてるヤバい奴だったら、俺、泣いて逃げるぞ」
俺が警戒して尋ねると、リリは「ふっ」と鼻で笑った。
「安心しなさい。ゼルは古龍の幼体よ」
「種族的には最強クラスに強いけど、中身はただのガキね」
「お菓子が大好きで、いっつも何か甘いものを握りしめてモグモグしてるわ」
「……子供? なんだ、ただのガキか」
俺の脳内で、ピコーン! と打算のスイッチが入った。
執行役員とはいえ、相手は子供。
子供なんてものは、適当に甘いものを与えておだてておけば、簡単に手懐けられる生き物だ。チョロい。ものすごくチョロい。




