マオリョー、人材確保します⑪ 性格までは、直らない
「それは別。性格までは契約魔法でもどうにもならないわ」
「直らねえのかよ! 一番大事なとこじゃねえか!」
リリは俺のツッコミを軽やかに無視して、ガタガタと震える手で懐から例のボロボロの羊皮紙を取り出した。
「いくわよ、ミィナ! マオリョー人事担当リリの名において、あなたと契約魔法を結ぶわ! ――結びなさい、浄化祈祷の契約魔法!」
リリが魔法の詠唱を始めると、例によって無駄に派手な光の粒子が広間を包み込んだ。
「おおっ!? なんか今回は俺の時よりエフェクトが豪華じゃねえか! 神々しい光が天から降り注いでるぞ!」
「当然よ!」
ミィナは頬に手を当てた。
「ミィナは水の精霊だから、彼女の神聖な属性に合わせて、契約魔法の儀式も特別仕様にしてあるのよ!」
「わかる、この細やかな配慮!?」
「無駄なところで予算と魔力使いやがって!」
「だからお前はいざという時にぽちょんとしか水が出せないんだろうが!」
「魔力配分の優先順位が根本的に狂ってんだよ!」
光が収まると、ミィナの瞳の奥に六芒星の魔法の紋様が一瞬だけ浮かび上がった。それと同時に、リリの丸メガネの奥の瞳孔にも、淡く青白い六芒星が映り込み、すぐに消えた。契約成立だ。
「……ふぅ。これで手続きは完了よ。ミィナ、今日からあなたも立派なマオリョーの社員よ」
「これからは、このわたしの指示に絶対服従して、粉骨砕身働きなさい!」
「……はいっ。ありがとうございます、リリさん。わたし、今度こそ、今度こそ絶対に役に立ってみせますから……ふふっ」
ミィナは立ち上がり、静かに微笑みながら胸を張った。
「……契約魔法のおかげで、わたしの体の中にみなぎるような力が戻ってきました」
「これもすべて、温かく迎えてくれたお二人のおかげです」
「お、おう。そうか。じゃあ、まずはその力で、このクソ寒い氷をなんとかしてくれねえか」
俺は半目になった。
「俺、さっきから寒すぎて足の感覚がないんだけど」
「……氷はアイシス様の強大な魔力でガチガチに固まっているので、わたしの水魔法では溶かせませんよ」
ミィナは静かに微笑んだ。
「アイシス様の御心を溶かすのは、もっと時間が必要です」
「静かな微笑みで無能宣言するな! じゃあお前の力って何に使えるんだよ!」
「……任せてください。わたしは浄化と癒やしの精霊」
ミィナは頬に手を当てた。
「勇者様、さっき氷の床で滑って転んで、お洋服が泥と氷水でドロドロのビシャビシャじゃないですか」
「わたしがその汚れと冷たさを、完璧に『浄化』してさしあげます」
「おっ? 浄化? ってことは、この冷え切った濡れ服を乾かして綺麗にしてくれるのか? それなら、まあ、助かるけど……」
「……はい。感謝してくださいね。わたしの過剰なほどの健気さ、とくとご覧あれ」
「……わたしはこれを『聖なる浄化』と呼んでいます。……ふふっ」
「きれいきれいかよ! 幼稚園児かお前は!」
俺は頭を抱えた。
「というか『おそうじだいさくせん』といい、なんでそっちの命名センスだけ統一されてんだよ!」
ミィナが俺に向かって両手を静かに突き出した瞬間、強烈な白い光が俺の全身を包み込んだ。
「うおおっ!? まぶしっ! そして……おお、なんかポカポカしてきた! 服の冷たさが一瞬で消えていくぞ! やるじゃねえかミィナ!」
「……ふふっ。どうですか」
「わたしの浄化魔法は、あらゆる不浄なものをこの世から消し去るんです」
「勇者様の服の泥汚れも、染み付いた汗の匂いも、ぜーんぶ綺麗な無に還してあげましたよ」
光が収まり、俺は自分の服を見下ろした。
確かに、ドロドロだった服は嘘のように乾き、汚れ一つないピカピカの状態に戻っていた。石鹸を使ったかのような良い匂いまでしている。




