マオリョー、人材確保します⑧ 氷の親戚、だそうです
「……決まってます。アイシス様は氷の魔族。氷といえばお水」
「つまり、わたしの親戚みたいなものです」
「ですから……アイシス様のお部屋の前の廊下を、わたしの浄化魔法でピッカピカの水鏡に磨き上げます」
ミィナは静かに微笑んだ。
「アイシス様がいつでも綺麗な氷を作れるように、最高の『環境整備』をしてさしあげるんです……!」
「そうすれば、アイシス様もわたしの忠誠心に感動して、きっと籠城を解いてくれます……!」
「やめろおおおおおお!!」
俺は円卓を蹴り飛ばして立ち上がった。
アイシス絡みの過剰な忠誠心が、完全に間違った方向へと空回りしている! これが、この日最大の厄災の始まりだった!
「お前バカか! いや、純度百パーセントのバカだろ!」
「氷の魔族の部屋の前に大量の水をぶちまけたらどうなるか、ミジンコでもわかるだろ!」
「瞬時に凍りついて、廊下が完全なスケートリンクになるだけだぞ!」
「籠城を解くどころか、物理的に扉が開かなくなって、俺たちの移動ルートが塞がれる大惨事になるわ!」
「……えっ? スケートリンク? わぁ、素敵。アイシス様、きっと喜びますね」
「……わたし、すぐに最高のスケートリンクを作ってきます」
「見ていてください、勇者様、リリさん。わたしの健気な働きぶりを……!」
「素敵じゃねえよ! 人の話を1ミリも聞いてねええええ!! ポンコツ人事!」
俺は思わず後ずさった。
「お前上司だろ、こいつを全力で止めろ! 俺たちまで氷漬けにされるぞ!」
俺がリリに助けを求めると、リリはなぜか、腕を組んでうんうんと深く頷いていた。
「うむ! 素晴らしいわ、ミィナ! それがマオリョーの社員の自発性というものよ!」
リリは得意げに鼻を鳴らした。
「エリート人事として、このモチベーションの高さにコンセンサァスをアグゥリィするわ!」
「お前、今何が起きようとしてるかわかってんのか!?」
「もちろんよ! ミィナが業務改善に向かっているわ!」
「何もわかってねえええ!!」
「評価してんじゃねええええええ!! 意味不明な横文字で背中を押すな!」
俺はため息をついた。
「お前ら二人揃って脳みそに致命的なバグ抱えてんのか!」
「なんでわざわざ自分たちの首を絞めるようなことばっかりするんだよ!」
「俺の平穏な無給生活をこれ以上脅かすな!」
「……ああっ、勇者様。応援ありがとうございます」
ミィナはうっとりと目を細めた。
「わたし、アイシス様のために、この城の廊下を全部、清らかなお水で洗い流して見せますね……!」
「わたしはこれを『清浄なる大瀑布』と呼んでいます。……ふふっ」
「ひらがなかよ! しかも作戦って! 全然大瀑布じゃねえだろ! というかその前に絶対やめろ!」
俺の制止も虚しく、ミィナが両手を天高く静かに掲げた瞬間、廃城の天井付近に巨大な水色の光が広がった。
そして、そこから――まるで巨大ダムが決壊したかのような、桁外れのすさまじい水量が、城の廊下に向かってドッッッバァァァァァッ!と雪崩れ込んだのである。
「ぎゃあああああああああああ!? やりすぎだバカああああああ!!」
「きゃあああああっ!? ちょ、ちょっとミィナ! お水冷たい!」
「わたしの服がまた濡れちゃうぅぅ!」
「これじゃオフサイトミーティングがウォーター・アクティビティになっちゃうじゃない!」
「横文字で現状をレポートすんな! 流されてるぞ俺たち!」
「……ふふっ。見てください。廊下のホコリが、見る見るうちに洗い流されていきますよ」
「わたし、役に立ってますよね? アイシス様のために、役に立ってますよね?」




