マオリョー、人材確保します⑦ 連れ帰ったは、いいものの
湖の底からミィナを連れ帰ったまではよかった。だが、この精霊、常に静かに微笑みながらも、感情の起伏に連動して無意識に水を撒き散らすという、歩く水害のような存在だったのだ。
「……はぁ、まあいい」
「とにかく、せっかく新入社員(しかも水を出せる超重要インフラ担当)が入ったんだ」
「葉っぱと水だけでも、とりあえず乾杯くらいはするか。俺の失われたカロリーは諦める」
「……ところで、おいポンコツ」
俺は泥だらけの葉っぱを指で弾きながら、リリに尋ねた。
「なんだかんだ言って、この会社には他にも社員がいるんだろ?」
「アイシスって執行役員がいるってさっき聞いたぞ」
「なんで今日の歓迎会は俺たち三人だけなんだよ」
「他の連中は、特にそのアイシスはどうしたんだよ」
俺の問いに、リリはあからさまに目を泳がせ、気まずそうに丸メガネのブリッジを人差し指で押し上げた。
「え、えーと……。他の社員は、まあ、その、出張中というか……。アイシスについては、ちょっと、ね……」
「嘘つけ。お前のその泳いだ目は、百パーセント都合の悪い事実を隠してる時の目だ」
「昨日、俺に前払いの給料の話をごまかした時と全く同じ顔してるぞ。吐け」
「他の社員はどうした。歓迎会の酒とつまみを買いに行ってるって言うなら許してやる」
「うっ……! だ、だってぇ……」
リリがもじもじしていると、代わりにミィナが、みるみるうちに涙目に変わりながらポツリと漏らした。
「……アイシス様は、絶対に来てくれませんよ。……だって、籠城していらっしゃいますから」
「籠城!? 歓迎会をボイコットして自室に籠城!? どんだけ嫌われてんだよお前!」
「……はい」
ミィナは恍惚と目を閉じた。
「わたしが戻ってきたって聞いて、ご自分の部屋の扉を分厚い氷でガチガチに固めて、引きこもってしまわれました」
「……『あの粗大ゴミ精霊の顔なんか見たくない! 近づいたら城ごと凍らせるわよ!」
「』って、部屋の中からすごい冷気が漏れてきてて……。わたし、悲しくて……ふふっ」
「笑いながら悲しむな! サイコパスか!」
俺は頭を抱えた。
「っていうか、執行役員が新入社員の顔見たくないって理由で城を凍らせようとする会社、組織として完全に終わってんぞ!」
「どんだけお前のこと根に持ってんだよ!」
「うぅ……っ」
「だってぇ、わたしはただ、保存庫を水洗いして綺麗にしようとしただけなのに……」
「確かにちょっとお水が出すぎて、お肉とかお野菜とかが全部プカプカ浮いて水没しちゃいましたけど……」
「……良かれと思ってやったんですよ……」
「それが大罪だって言ってんだろ! なんで自分は悪くないみたいなトーンで語れるんだよ!」
俺は指を突きつけた。
「お前のその過剰な健気さと、圧倒的なポンコツっぷりが一番タチ悪いんだよ!」
俺が激しく説教すると、ミィナは「うっ、うっ……」としゃくりあげながら、突如として顔をバッと上げ、両手の拳をギュッと胸の前で握りしめた。
その深海色の瞳には、謎の決意の炎(水の精霊なのに)がメラメラと燃え上がっていた。
「……いいえ。わたし、こんなところで泣いてちゃダメですよね」
ミィナはにっこりと笑った。
「マオリョーの社員として再雇用していただいたんですから、アイシス様にもう一度、わたしの有能さと、会社への『忠誠心』を証明してみせます……!」
「ふふっ、見ていてください!」
「おい、待て。猛烈に嫌な予感がする。俺の危険察知センサーがガンガン鳴ってる。お前、何を企んでる」




