マオリョー、人材確保します⑥ 歓迎会、という名の地獄
天井の半分が抜け落ち、隙間風がピューピューと吹き込む魔王城の大広間。
かつては魔王軍の幹部たちが豪華な宴を開いていたであろうその場所で、俺はひび割れた円卓の端に座り、向かいでふんぞり返っているリリを、親の仇を見るようなジト目で睨みつけた。
「なによ! 信じられない単語って!」
「このエリート人事のわたしが、新入りの後輩のために歓迎会を開いてあげるのよ」
リリは得意げに胸を反らした。
「『歓迎会という名のオフサイトミーティング』。めちゃくちゃホワイト企業らしい提案でしょ!」
「その『歓迎会』って単語だよ! そして『オフサイトミーティング』って単語もだ!」
俺は円卓をバンッと叩いて立ち上がった。
「歓迎会っつうのはな、最低でも唐揚げとか、フライドポテトとか、百歩譲って乾き物と安酒くらいは並べてから言うセリフだろ!」
「こっちはタダ飯が食えると聞いて、道中の木の実も我慢して、胃袋を空っぽにして待ってたんだぞ!」
「なのに何だ、この廃城のボロ広間で、参加者三人」
俺は葉っぱをつまみ上げた。
「テーブルにあるのは、お前がそのへんでむしってきた泥だらけの葉っぱ三枚と、このアホ精霊が出したただの真水だけ。刑務所の晩飯のほうがマシだわ!」
「う、うるさいわね! 予算がないんだから仕方ないじゃない!」
「マオリョーは現在絶賛再建中で、金庫の中身は銅貨一枚すらないの!」
「だからこそ、ただの飲み会じゃなくて『オフサイトミーティング』として、会社の未来を語り合う意義深い場にしようって言ってるのよ!」
「わかる!? この人事としての高度なマネジメント能力!」
「だからそのオフサイトミーティングって何なんだよ! 説明してみろ!」
「ふっ、わかってないわね」
「オフサイトミーティングというのはね、こう……普段の場所じゃないところで、気持ちをオフにして、サイトをミーティングする……」
リリは丸メガネを押し上げた。
「つまり、いつもと違う環境で本音を語り合う場のことよ!」
「どう!? エレガントでしょ!」
「説明の途中が全部おかしいのに、なんで最後だけ正しいんだよ!」
俺は指を突きつけた。
「しかも今俺たち職場の広間にいるじゃねえか! オフサイトの条件すら満たしてないだろうが!」
「タダ飯の期待を裏切られた俺のカロリー損失と精神的苦痛をどう補償してくれるんだ!」
俺が声を大にしてツッコミを入れると、テーブルの隅で正座していたミィナが、感極まったように両手を胸の前で組み合わせた。
「……あ、あのっ。勇者様、リリさん」
ミィナは恍惚と目を閉じた。
「わたしの歓迎会を開いてくださって、本当にありがとうございます」
「……わたし、一度アイシス様に氷漬けにされてクビになった身なのに、こんなに温かく迎えていただけるなんて……っ」
「感激で、また足元からお水が湧き出ちゃいそうです。……ふふっ」
「やめろ! 湧き出させるな! お前が感激するたびに床が水浸しになるんだよ!」
俺は思わず後ずさった。
「すでに俺の靴下はグチュグチュなんだぞ! 俺がどれだけ足先の冷えに弱いと思ってるんだ!」
「歓迎されてる自覚があるなら、まずはその歩くスプリンクラーみたいな漏水体質をどうにかしろ!」
「ひっ!? ご、ごめんなさい……」
ミィナは頬に手を当てた。
「わたし、すぐに感動しちゃう純粋な精霊なので、……心の潤いがそのまま物理的な潤いになってしまうんです……」
「悪気はないんですよ……」
「物理的な潤いの量が尋常じゃねえんだよ!」
俺は指を突きつけた。
「お前のせいでこの広間、すでに水深三センチの浅瀬みたいになってるぞ!」
「歓迎会じゃなくて地引き網漁でも始める気か! 漁獲量ゼロのクソイベントだろうが!」
俺は天を仰いだ。




