マオリョー、人材確保します⑤ 忠誠心の方向が、おかしい
「湧き出させるな! 足元が泥沼になってんだろ!」
俺はこめかみを押さえた。
「お前のその重すぎる忠誠心、方向が完全にイカれてるんだよ!」
「なんで追放されたのにそんなに慕ってんだよ!」
「ストーカー通り越してただのサイコパスじゃねえか! 悪気がない分、タチが悪すぎる!」
俺は悲鳴を上げながら後ろに飛び退いた。
これはヤバい。こいつは本物の厄災だ。隣にいる大声で自爆するポンコツサキュバスとは真逆の、静かに笑顔で特大の惨劇を引き起こすタイプの、最悪のポンコツだ。
「……おい、ポンコツ人事。俺は今、猛烈にこいつを城に連れ帰るべきか迷っている」
俺はツッコんだ。
「っていうか、連れ帰りたくない。絶対に連れ帰りたくない」
「なによ! わたしだって連れ帰りたくないわよ! でも安定したお水が必要なんでしょ!」
「わたしの気合いの水は昨日一滴しか出なかったし! お互い背に腹は代えられないってやつよ!」
「お前も嫌なのかよ! じゃあ二人揃って嫌がってんのに、なんで連れ帰ることになってんだよ!」
俺は天を仰いだ。
「……くそっ、わかってる。水がないと死ぬのは俺だ」
「こいつの『良かれと思って』やる行動が、全部致命的な大惨事に直結してるのはわかってるけど、背に腹は代えられねえ……!」
俺たちがヒソヒソと(いや、大声で)揉めていると、ミィナがスッと距離を詰めてきた。
相変わらずの、完璧な微笑みだ。
「……勇者様。ひどいです。わたし、こんなに健気で、アイシス様のため、会社のために粉骨砕身する覚悟があるのに」
「その覚悟の矛先が常に間違ってんだよ!」
俺はこめかみを押さえた。
「お前、城に戻ったらまた『アイシス様のために』とか言って、何かとんでもないものを水没させる気満々だろうが!」
「……いいえ、そんなことしません。わたしも反省しています」
ミィナは頬に手を当てた。
「……よろしければ、アイシス様のために、この倒産したボロ城の穢れをすべて浄化して、一度きれいな湖の底に沈めてさしあげましょうか?」
「新しいピカピカの城の基礎になりますよ。……ふふっ」
「ナチュラルに城を滅ぼそうとするなああああ!!」
「お前は息をするようにテロを提案するんじゃない!」
「笑顔で静かに言うから余計にサイコパスみが増して怖いんだよ!」
「お前は絶対、無意識のテロリストだ!」
俺は頭を抱えてしゃがみ込んだ。
関わりたくない。全力で逃げ出したい。
だが、背に腹は代えられない。水がないと俺が死ぬ。俺の命がかかっているのだ。
「……くそっ。わかった、連れて帰ってやる」
「お前を再雇用してやるから、絶対に俺の許可なく魔法を使うなよ!」
「特にアイシス絡みで勝手に動くな! いいな!?」
「……本当ですか!? またアイシス様のおそばで働けるんですね!」
ミィナはにっこりと笑った。
「ありがとうございます、勇者様! わたし、今度こそ役に立ちますから!」
「どんなご迷惑な仕事でも、このミィナにすべてお任せください!」
「お前が一番の迷惑なんだよ! なんで自分から迷惑って言っちゃってんだよ!」
「……ふふっ。迷惑かどうかは、かけてから判断してくださいね」
「事後承諾前提かよ! かける前にやめろっつってんだよ!!」
俺の悲痛な絶叫は、美しい湖畔の青空に空しく吸い込まれていった。
こうして俺は、安定した水源と引き換えに、静かに微笑む歩く厄災を一つ、城へと連れ帰ることになったのだ。
俺の平穏な異世界生活というささやかな夢は、この時点で、完全に水底へと沈んだのだった。
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「……おい、ポンコツ人事」
俺は声を張り上げた。
「俺の耳が完全に腐って異世界のバグを受信しているのでなければ、お前、今信じられない単語を口にしたよな?」




