マオリョー、求人募集します② 履歴書は、持ってきた?
白銀のツインテール、毛先だけ薄紫。メイド服とも事務制服ともつかない不思議な意匠の服に、丸メガネ。
見た目だけなら、まあ悪くない。だが、態度がものすごく偉そうだった。
「ふっ……ようやく来たわね、新人」
腕を組み、不自然なほど胸を張り、クイッと顎を上げている。来客を待ちわびていた高貴な女神のような風情だが、立っている場所は「天井に穴の空いた廃城の玄関」。しかも、今しがた瓦礫につまずいて軽くよろめいていたのを、俺は見逃していない。
「おい。魔王はどこだ。倒しに来てやったぞ」
「魔王様? いないわよ」
「…………いない?」
「ええ、数ヶ月前からね。社長がいなくなっちゃって、社員もみんな散り散り。おかげで城はこのありさまよ。でも、安心して!」
女はビシッと親指で自分を指差し、ドヤ顔をキメた。
「この優秀なわたしが、城をしっかり回してるから!」
……待て。今こいつ、魔王のことを「社長」と呼ばなかったか?
「……あんた、一体誰だ?」
「わたしはリリ。種族はサキュバス、マオリョーの人事担当よ」
「まおりょー?」
「『魔王領管理株式会社』。この魔王領全体を管理・運営する由緒正しき会社よ。略して、マオリョー」
魔王城の、人事。聞いただけで猛烈に頭が痛くなる単語が、最悪の形で二つ並んでいた。
「なんだよその態度。てっきりお前が新社長なのかと思ったぞ」
「いいえ、ただの平社員よ」
「態度と役職がまるで合ってねえよ! どんだけ自己評価高いんだお前!」
「失礼ね! でも事実じゃない! 城を回してるのは、このわたしなんだから」
リリは胸を張った。
「人事ってのはね……こう、人を、いい感じにする仕事なの。みんながいい感じになるように、わたしがいい感じにする。わかる? この、いい感じ!」
「いい感じしか言ってねえ! 一周回って何も説明してねえぞ!」
リリと名乗った女は、俺のツッコミなど意に介さず、ふんぞり返ったまま俺を上から下まで値踏みするようにジロジロ見て、ニヤリと笑う。
「ちょうどよかったわ。採用してあげる」
来た。冒頭の一言だ。
「ちょっと待て、誰がお前んとこに就職するって――」
「履歴書は持ってきた?」
「持ってくるわけないだろ! 俺は討伐に来たんだぞ!」
俺は声を張り上げた。
「魔王城に履歴書持参で乗り込む勇者がどこにいる。志望動機に『御社の魔王を討伐し、世界平和に貢献したいため』って書くのか。不採用確実だろ!」
廃城に俺の絶叫がむなしく響き渡る。
だがリリは、俺のもっともな反論など、これっぽっちも聞いちゃいなかった。
魔王城の正門前で、勇者である俺は、いつの間にか色気ゼロの自称サキュバスに「採用」されかけていた。
「あらやだ、準備不足ね。面接に履歴書を持参しないなんて、社会人失格よ。これだから最近の若い冒険者は……」
リリはやれやれと首を振りながら、なぜか俺に社会人マナーの説教を始めやがった。
廃城の玄関で平社員に説教される勇者。さっき底が抜けた植木鉢のほうが、まだ社会に貢献している気がする。
「まあいいわ。わたしは慈悲深いから、特別に書類選考はスキッピングしてあげる。即採用、いえ、即オンボーディンッグよ。さあ、感謝しなさい!」
「急に発音だけネイティブにすんな! スキッピングもオンボーディングも、絶対意味わかってねえだろ!」
リリは俺のツッコミなど完全に無視して、懐から見るからによれよれの古ぼけた羊皮紙を取り出した。
「さあ、サインして。ここに」
「するか! 労働条件も聞いてないのにサインできるかよ!」
おっと、危ない危ない。すんでのところで踏みとどまる。怪しい会社と関わるときこそ、先に労働条件を詰めておくのが大人のやり方だ。
「働くってんなら、先に金の話だ。前金は?」
「ふっ……新人のくせに、いきなり前金を要求するのね。生意気な」
「当然だろ! 金額確認しない奴はカモにされるんだよ!」




