マオリョー、求人募集します① 採用してあげる、と言われた
マオリョー、求人募集します① 採用してあげる、と言われた
「採用してあげる」
なぜか、ひどく偉そうにそう言われた。
ちょっと待ってほしい。世界に平和をもたらすため、はるばる魔王を倒しに来たはずのこの俺が、だ。どうしてこんな薄汚れた廃城のエントランスで、上から目線で採用通知を受け取っているのだろうか。
*
事の発端は、半日前にさかのぼる。
「なんで俺が、こんな目に遭わなきゃならないんだ……」
俺は愛用の剣(と言っても初期装備のなまくら剣だが)を杖代わりに、最果ての丘の斜面を這うように登っていた。
そもそもおかしいだろ。異世界に召喚されて勇者として魔王を討伐、世界を救う、までは百歩譲って受け入れる。だがな、なんで初期装備が『カビの生えた布の服』と『錆びたなまくら剣』からスタートなんだよ。
道中も最悪だった。組んだ戦士は「スライムの体液が鎧につくのが生理的に無理」と初日でフェードアウト。期待の魔法使い美少女は「お肌が荒れるから野宿はムリ」と本当に帰りやがった。結果、ソロプレイ。
しかも、ここまでの旅費は全部ギルドからの借金だ。法外な利子付き。報奨金で耳をそろえてお返しします、と大見得を切ってむしり取ってきた。倒して一攫千金を得られなければ、残るのは莫大な借金だけ。文字通り、後がない。
「だから、頼む……。魔王、めちゃくちゃ強くて、めちゃくちゃ金持ちであってくれ……!」
そんな切実な祈りを胸に、俺はついに丘の頂上へとたどり着いた。
眼下に広がるのは、禍々しい瘴気を放ち、雷鳴が轟く絶対防衛拠点……のはずだった。
「……いや、ボロくない?」
虚空に向かって、渾身のツッコミ。
外壁は崩れ、尖塔はピサの斜塔も真っ青な角度で傾き、屋根には雑草が生い茂って独自の生態系を築いている。極めつけは正門で、片方だけが蝶番からだらしなくぶら下がり、風が吹くたびにギイギイと嫌な音を立てていた。
「勇者が討伐に来るより先に、解体業者呼んだほうがいいだろこれ……」
おそるおそる近づくと、半壊した正門に一枚の木の札が打ちつけられていた。
『急募 正社員(要・やる気)』
「いやいやいや、響きだけで、もう倒産の気配がプンプンするじゃねえか……!」
しかもその下に、ご丁寧にこう書かれていた。
『未経験歓迎・住み込み可・アットホームな職場です』
「……『アットホーム』を自称する職場、ろくなもんじゃねえって相場が決まってんだろ。無限サービス残業と精神論が渦巻く地獄への入り口だ」
俺は元ニートとしての生存本能で、即座に踵を返そうとした。が、すぐに足が止まる。
「……でも、逃げ帰ったら借金取りが待ってんだよな」
ここまでの旅費は、すべてギルドからの前借り。逃げ場はない。
「……宿無しの無職で借金取りに追われるよりは、魔王城のほうがマシ、か? たぶん……」
自分に言い聞かせるように呟き、俺は割れた門扉に手をかけた。
ふと見ると、伸び放題の雑草の合間に、植木鉢が一つ妙に堂々と日光を浴びていた。中身はただの雑草。
「……せめてこの鉢だけでも、どこかに売って金にならないか?」
藁にもすがる思いで持ち上げた瞬間――バサァッ!
底が綺麗に抜けていた。乾いた土が、ばらばらと足元にこぼれ落ちる。
「なんだこのトラップ! 植え込みのほうがよっぽど態度がでかいじゃねえか!」
ぼやきながら土を踏みつけていると、足元から「ぴぃ」という間の抜けた声がした。
見下ろすと、一羽の鶏が、廃城の玄関先でこぼれた土をつついていた。迷い込んだのか、それとも元から住みついているのか。なんにせよ、魔王城の住人にしては随分と牧歌的な生き物だ。
「……お前も倒産の煽りを食らった口か」
鶏は「ぴぃ」と一声鳴いて、俺の問いかけには答えなかった。
俺が地面の土を蹴飛ばして八つ当たりした、まさにそのときだった。
「――あら」
背後から、やけに澄んだ、だがどこか癇に障る声がした。
振り向くと、天井に穴の空いた廃城の玄関口に、一人の女が立っていた。




