マオリョー、人材確保します③ 水の精霊を、呼んでこい
「出汁って言わないの! ミィナは水の精霊なんだから、むしろ水が綺麗になるのよ!……たぶん」
「たぶんって言うな! お前の『たぶん』は昨日から一切信用してねえんだよ!」
俺は頭を抱え、もう一度湖の底へと意識を向けた。
間違いない。底に沈むミィナを発見してしまったのだ。俺の『探索強化』は、どうしてこう、面倒なものばかりを見つけ出すのか。
「……おい、ポンコツ人事。お前、あいつが元社員なら顔見知りなんだよな?」
「ええ、まあ。一応、わたしが着任した直後に採用の手続きをしたし」
「だったらさっさと呼んでこい!」
俺は指を突きつけた。
「あいつを仲間に引き戻せば、わざわざ毎日ここまで水を汲みに来なくても、城で水が出せるようになるかもしれないだろ!」
「え〜……やだ。あの子、すっごく厄介なんだもん」
「静かにニコニコしながらとんでもないことやらかすタイプだから、連れて帰ったら、絶対また大問題起こすわよ」
「厄介ってなんだよ! 昨日の大爆発を起こしたお前以上に厄介な奴がいてたまるか! いいからさっさと湖に入って連れてこい!」
「やだやだ! 服が濡れる! これじゃ午後の業務に支障が出るわ!」
「業務って何だよ、お前いつも油売ってるだけだろ! そもそもサキュバスのくせに色気ゼロじゃねえか!」
「失礼ね! わたしは仕事ができる、知的なエリートサキュバスなのよ!」
青く澄み渡る美しい湖の畔で、俺とポンコツ人事の不毛な口論が空しく響き渡る。
水は必要だ。しかし、その水源の底には、エリート人事が「厄介だ」と評する元社員が沈んでいる。
マオリョー再建のための人材は、確かにそこにあった。
だが、それを確保するための道のりは、俺の過労と胃痛をさらに加速させる予感しかしなかった。
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「だからさっさと呼んでこいって言ってんだよ! あそこに沈んでるのが元社員なら、上司のお前が責任持って引っ張り上げろ!」
「はぁ!? なんでエリート人事であるわたしが、わざわざ水に濡れなきゃいけないのよ!」
「これは明らかに人事部の業務範囲外!」
「管理職に現場作業させるなんて、立派なコンプライアンス違反よ!」
「コンプラ違反はその働かなさの方だろ!」
俺はこめかみを押さえた。
「サキュバスのくせに色気ゼロで、仕事だけきっちり避けやがって!」
「沈んだ社員を回収すんのは上司の仕事だろ、いいからさっさと行け!」
「うわああああん! 勇者のくせに自分の保身ばっかり! あんたそれでも男なの!?」
澄み渡る湖の畔で、俺とポンコツ人事が不毛な言い争いを続けていると、突如、湖の中心部からぽこっ、ぽこぽこぽこっ、と無数の気泡が湧き上がり始めた。
「……ん? おい、水面が泡立ってるぞ。なんだ、ヤバい魔物か!?」
ざばぁぁぁぁっ!
水柱を上げて、湖の中心から『それ』が飛び出してきた。
深海色の長い髪を振り乱し、水を纏った半透明のドレスを着た少女。太陽の光を浴びてキラキラと輝くその姿は、確かに『精霊』と呼ぶにふさわしい神秘性を帯びている。
なるほど、これが水の精霊、というわけか。
「……ふぅ。湖底の石の裏のコケ、六万三千個目のお掃除完了です」
少女は、空中でふわりと身を翻し、水面の上に静かに降り立った。滴る水も気にせず、柔らかく、そしてどこか底知れぬ微笑みを浮かべている。
「……あら。リリさん、お久しぶりです」
「そしてそちらの、いかにも貧乏くさくてケチで打算的そうな顔つきの人間は、マオリョーの新しい生贄ですか?」
「……ふふっ」
「誰が生贄だ! 誰が貧乏くさくてケチで打算的な顔だ!」
「……いや、打算で動いてるのは認めるけど!」
「俺は魔王討伐の報酬でギルドの借金返すために来たのに、倒産企業に無給で就職させられた悲しき新入社員、勇者だ!」




