マオリョー、人材確保します② 壁の外だけ、4K画質
太陽の光を反射してキラキラと輝く、巨大で透き通るような湖。まさに神秘のオアシスだ。
「おおーっ! すっごく綺麗! さすがはマオリョーの誇る水源ね! わたしの心のように澄み渡っているわ!」
「お前の心はヘドロより濁ってんだろ。……よし、とりあえず魔物が潜んでないか、探索でチェックしておくか」
俺は目を閉じ、『探索強化』の契約魔法を発動した。
脳内に、高解像度のレーダーマップが展開される。
「……やっぱりすげえな」
俺は天を仰いだ。
「城の中だとモザイクかかったみたいにボヤボヤで、横にいるニワトリすら賊と間違えるレベルのクソ精度なのに」
「城の壁の外に出た途端、4K画質並みにクリアに視える」
「ゲームバランスおかしいだろ、このスキル」
「ふふん! それがわたしが結んだ契約魔法の力よ! 感謝の言葉をアグゥリィして、早急にコンセンサァスを取りなさい!」
「アグゥリィしてコンセンサァスを取るってなんだよ! 単語の意味わかってねえだろ! 雰囲気でビジネス用語使うな!」
俺はポンコツのドヤ顔を無視して、意識を湖の底へと向けてスキャンを続けた。
小魚の群れ、水草の揺れ、すべてが手にとるようにわかる。危険な巨大モンスターの反応はない。これなら安全に水を汲めそうだ。
「よし、安全確認完了。魔物の反応はゼロだ。これでようやく、まともな水が……」
その時だった。
俺の脳内レーダーが、湖のど真ん中、最も深い底の部分に、奇妙な反応を捉えた。
「…………ん?」
小魚ではない。岩でもない。
それは明らかに、手足があり、衣服を着ている『人型』の反応だった。
「……おい。ちょっと待て」
俺はパチッと目を開け、湖の中心を指差した。
「どうしたのよ? 早くお水飲ませてよ」
「水飲んでる場合じゃねえ! おいリリ、あそこ! 湖の底に、人が沈んでるぞ!」
「え?」
リリが丸メガネをクイッと押し上げた。
「人が? まさか。こんな森の奥深くの湖に、人が沈んでるわけないじゃない」
「でも俺の探索にはハッキリ人型の反応が出てるんだよ! しかもピクリとも動いてねえ!」
「おいこれヤバいって! 水難事故か!?」
「それともマフィアにドラム缶詰められて沈められた死体遺棄事件か!?」
俺は完全にパニックになり、湖畔をウロウロと歩き回った。
「ど、どうする!? 警察……じゃなくて、この世界の衛兵とか呼ぶべきか!?」
俺は指を突きつけた。
「いや待て、俺たち魔王軍の残党じゃねえか!」
「衛兵呼んだら死体遺棄の犯人にでっち上げられて、俺がしょっぴかれるパターンだろ!」
「くそっ、関わりたくねえ!」
「なんで水汲みに来ただけでこんな面倒事に巻き込まれなきゃなんねえんだよ!」
俺が一人で大騒ぎしている横で、リリは「ふぁ〜あ」とのんきな欠伸をした。
「あーあ、なんだ。底に沈んでるのって、たぶんミィナのことね」
「…………は?」
俺の足がピタリと止まった。
「……ミィナ? 誰だよそれ」
「んー? 水の精霊よ。一応、うちのマオリョーの元社員なんだけどね」
「元社員!? なんで元社員が湖の底に沈んでんだよ! お前らの会社、退職者を湖に沈める掟でもあんのか!? どんな反社組織だよ!」
俺が青ざめて叫ぶと、リリはやれやれという顔で肩をすくめた。
「失礼ね、違うわよ。あの子、精霊だから水の中のほうが居心地がいいみたいなの。だから、たぶんそこで寝てるだけじゃないかしら」
「寝てる!? 水底で!? どんな生態してんだよ! 息継ぎどうなってんだ!」
「だから精霊なんだってば。水があれば死なないわよ」
「そういう問題じゃねえだろ!」
俺は頭を抱えた。
「俺たちがこれから飲もうとしてる貴重な水源の底に、元社員が沈んでるとか、衛生観念どうなってんだよ!」
「完全に出汁が出ちゃってんじゃねえか!」




