マオリョー、求人募集します⑪ 無駄に、すげえ
現れたのは、白と青を基調とした、いかにも正統派の勇者然とした清楚なローブ。腰には立派な剣まで提げている。神々しさすら漂う、絵に描いたような『勇者』の姿だ。――ただし、髪と瞳の色だけは、なぜか俺にそっくり寄せてあった。
「無駄にすげえええええええっ!?」
俺は思わず腕で目を庇いながら叫んだ。
「なんだそのクオリティ!?」
俺は目を剥いた。
「なんでさっきの水一滴の時にその無駄なエフェクト使わなかったんだよ。予算の無駄遣いか。アニメならここだけで作画兵団が何人か過労死して、後の戦闘の作画が崩壊するレベルだぞ」
「ふふん! どう!? これがマオリョー人事担当、リリの真の姿よ! さあ、称えなさい! 議事録に『リリさん、大活躍』って太字で残しときなさい!」
「腹立つけど、ちょっとだけ神々しいのが逆にムカつく!」
俺は思わず一歩引いた。
「……って、おい待て。なんでお前の方が、本物の勇者より立派な勇者の格好してんだよ」
「こっちはカビた布の服に錆びたなまくら剣だぞ。髪と目だけ俺に寄せて、装備はフル装備の上位互換かよ」
「色気ゼロの事務員が、色気ゼロの勇者もどきにクラスチェンジしただけじゃねえか。で、結局その衣装で何すんだ。早く水道管の詰まりをぶっ飛ばして、水を確保しろ!」
俺が急かすと、光を纏ったリリは「任せなさい!」と自信満々に頷き、俺の背後に回ってドンッと背中を叩いた。
「いくわよ……! 新入社員、あなたの力を、このわたしが完璧に『束ねて』あげる!」
「おい、ちょっと待て。背中に手を当てられただけで、俺の体力がすげえ勢いで吸い取られてる気がするんだけど!?」
俺は青ざめた。
「大丈夫なのかこれ! HPゲージがゴリゴリ減ってる音がするぞ!」
「気のせいよ! さあ、ターゲットはあの配管の奥に詰まったスライムの死骸ね! わたしたちの力を一つに合わせて、一撃で粉砕するわよ!」
厨房の空気がビリビリと震え、俺の体からも淡い光が立ち昇って、リリの魔力と混ざり合っていく。
あとは、最後の一段。技の名を、二人で同時に呼べば完成する。リリの口元が誇らしげに開かれた。
確かにすごいパワーだ。これなら、あの硬そうな詰まりも一瞬で消し飛ぶに違いない。俺はついに、この異世界就職活動で初めての『成功体験』を得られるのだと、少しだけ期待してしまった。
「集え、二つの力! 障害を打ち砕く激――」
「いけえええ、リリ!」
「ええ、いくわよ! ふぁ……」
リリの詠唱が、クライマックスでピタリと止まった。
「……は?」
「あっ、ふぁっ……」
「おい。お前、まさか」
「ふぁっ、くちゅんっ!!」
リリが、盛大なくしゃみをした。
その瞬間。
バチィィィィィンッッッ!!!
最終キメに到達しない宙ぶらりんの魔力が、行き場を失ったまま俺とリリの間で暴発し、水道管に向かって一直線に逆流した。
ボンッ、と気の抜けた音と共に、リリの神々しい装束が光の粒子になって弾け飛び、彼女の体は元のボロいメイド服風事務制服へと一瞬で逆戻り。浮いていた髪も色を失って、ぱさりと肩に落ちた。
「あぐっ!」
支えを失ったリリが、ぺたんと尻もちをついた。
「ぎゃあああああああああああああああ!?」
ドッッッッガァァァァァン!!!
リリの転倒に構っている暇はなかった。
凄まじい爆音と共に、配管の詰まりどころか、石造りの流し台、地下へ続く太い水道管、さらには厨房の床の石畳までが、内側からの超圧力に耐えきれずに大爆発を起こした。
砕け散る瓦礫。そして、その亀裂から、地底湖の圧力をそのまま持ってきたかのような、巨大な水柱が天高く噴き上がったのだ。
「ぶっ、ごぼっ!? ぐわああああああっ!?」
「きゃあああああああああっ!?」
俺と、事務制服に戻ったリリは、吹き荒れる水圧と瓦礫の嵐によって、厨房の端までボロ雑巾のように吹き飛ばされ、壁に激突した。
束ね損ない、そして第1の失敗である。




