マオリョー、求人募集します⑩ 束ねるって、何だよ
「だから! このエリート人事であるわたしが、直々にあなたを『束ねて』あげるって言ったのよ!」
「束ねる? 物理的にか? 縄で縛んのか?」
俺は思わず身構えた。
「それとも、ブラック企業がよく言う『社員の心を一つに』みたいな精神論か? だったら今すぐ田舎に帰るぞ」
「誰がそんな暑苦しいこと言うのよ。魔法に決まってるでしょ」
リリは丸メガネを押し上げた。
「あなたの微弱な魔力を、わたしの洗練された魔力と同調させて、一つの大きな力として放つの。このわたしが直々にマネジメントしてあげるのよ。泣いて感謝しなさい」
リリは豊かではない胸を反らし、ドヤ顔をキメた。
「感謝する要素がどこにあるんだよ!」
俺は鼻で笑った。
「お前さっき、渾身の気合いで『ぽちょん』しか出せなかっただろ。そんなスライムの涙以下の魔力に、俺の初期パラメーター預けられるか」
「あ、あれは準備運動よ!」
リリは慌てて目を逸らした。
「いきなり本気を出すと、この城が跡形もなく吹き飛んじゃうかもしれないから、極限まで手加減してあげたの。エリート特有の高度な気遣いよ!」
「絶対嘘だろ! 完全に魔力欠乏の顔してたぞ!」
俺は容赦なく指を突きつけた。
「目ぇバッキバキに泳いでたじゃねえか。そもそも履歴書なしで即採用する人事の魔法なんて、どうせコンプラ違反の欠陥魔法に決まってる」
「うるさーい! このパワハラ新入社員!」
リリは地団駄を踏んだ。
「つべこべ言わず黙って立ってなさい! 今からフル変身をお披露目するんだから、瞬きせず焼き付けなさい!」
「フル変身!? なんだよそれ、サキュバスに変身形態とかあんのかよ!」
ツッコミを入れた瞬間、リリの瞳孔がカッと光を帯びた。
丸メガネの奥で、彼女の瞳孔がさっき俺の瞳に浮かんだのと同じ複雑な模様を映し出している。
「……まずは、あなたの詠唱からよ。あなたの力をわたしに預けるための、言葉。短くていいわ。あなたの本心を口にしなさい」
「俺の本心? なんだよそれ。マニュアルくれよマニュアル」
「マニュアルなんかないわよ! 心の中にあるものを言葉にするの! さあ、早く!」
俺は深いため息をついた。心の中にあるもの、と言われても、この状況で俺の本心など一つしかない。
「……あー、もうクソ。なるようになれ。――退くものか。今日の飯と寝床くらい、ちゃんと寄越せ」
「ちょっと、もうちょっと格好いいやつなさいよ!」
「うっせえ! これが俺の本心だ! 文句あんのか!」
だが、その投げやりな宣言が引き金になったのか、俺の体の中で何かがカチリと噛み合う感覚があった。
胸の奥から淡い光が立ち昇り、リリの方へと細い糸のように伸びていく。
「ふ、ふん……まあ及第点ってことにしてあげるわ」
リリが指揮者のように両腕を広げた。
そして、彼女の白銀のツインテールが、毛先から根元へと、ゆっくりと色を変え始めた。透き通るような白銀から、俺の魔力に呼応するように――よりにもよって、俺の髪と同じ、見慣れた地味なブラウンへと。
「結ぶ者として……あなたの色を、我が髪に」
リリの詠唱が、一段。
ふわり、と髪が重力に逆らって浮き上がる。
「うわ、なんかすげえ……」
「黙って見てなさい、瞬きしたら罰金よ」
続いて、丸メガネの奥の瞳が青く澄んだ色に染まり、瞳孔に小さな十字の光が浮かび上がる。これも、俺の瞳とそっくり同じだった。
「あなたの瞳を、我が瞳に映して」
リリの詠唱が、二段。
ボロボロのメイド服風の制服が、ふいに光の粒子に分解された。
「ちょっ、何脱いでんだお前――」
「脱いでないわよ! 段階進行よ! 由緒正しき変身工程よ!」
俺がツッコミを入れる間もなく、舞い上がる光の粒子が再構成されて、彼女の体を新たな装束で包み込んでいく。




