第8話 実戦訓練と予感
グラウンドは広かった。
広すぎた。
「学院って学校だよな?」
「そうよ」
「なんで闘技場みたいなのあるの」
「実戦訓練用だから」
普通に怖い。
石造りの訓練場では、他クラスの生徒たちまで模擬戦をしていた。
火花。
魔法。
爆音。
学校ってなんだっけ。
クローディア先生は淡々と言う。
「今日の授業は対人戦の基礎確認だ」
嫌な単語。
「ペアで前へ出ろ」
生徒たちがざわつきながら移動する。
エリシアが俺の袖を引いた。
「行きましょう」
「今から逃げるのってあり?」
「なし」
即答だった。
訓練場中央へ出る。
他のペアを見る限り、木剣か魔法で軽く打ち合う感じらしい。
……軽く?
普通に吹き飛んでる人いるけど?
「ルールは簡単だ」
クローディア先生が言う。
「相手へ一撃入れれば勝ち」
その瞬間、予感がした。
ものすごく嫌な予感。
「……エリシア」
「なに?」
「たぶん俺、吹っ飛ぶ」
「大丈夫よ。加減するから」
「その言い方が怖い」
すると、近くでセシルが笑っていた。
「いやあ楽しみだな。殿下の魔法を真正面から食らうリオ」
「やめろ縁起悪い」
「安心しろ」
シオンまで混ざってきた。
「死にはしない」
「お前の励まし怖いんだよ!」
クローディア先生が手を上げる。
「開始」
その瞬間。
周囲で一斉に戦闘が始まった。
木剣がぶつかる音。
魔法の光。
歓声。
エリシアも一歩下がり、指先へ風を集め始める。
「リオ、ちゃんと避けてね」
「避けられる前提!?」
風が渦を巻く。
いや待て。
これ基礎ってレベルじゃない。
「ちょっと本気じゃない?」
「基礎よ?」
「王族基準やめろ!」
エリシアは楽しそうに笑う。
その顔を見た瞬間。
予感が変わった。
危険じゃない。
もっと別の感覚。
右。
反射的に体が動いた。
次の瞬間、風弾が横を通り過ぎる。
「え?」
エリシアが目を見開く。
周囲もざわついた。
「避けた?」
「今の見えたのか?」
「偶然?」
いや俺もわからん。
ただ、来る気がした。
エリシアが少し真面目な顔になる。
「……もう一回いくわよ」
「待って心の準備」
「無理」
早い。
今度は三発。
風の矢みたいなのが飛んでくる。
でもまた予感がした。
左、しゃがむ、前。
気づけば全部避けていた。
静寂。
クローディア先生の目が細くなる。
セシルが口を開けてる。
ノアがなんか泣いてる。
「エリシア殿下の魔法を平民が避けたぁ……」
「なんでお前が泣くんだ」
エリシア本人が一番驚いていた。
「……リオ」
「ん?」
「あなた、本当に戦えないの?」
「戦えないよ」
「でも全部避けた」
「なんか来る気した」
クローディア先生が近づいてくる。
怖い。
「リオ」
「はい」
「お前、それは常時か?」
「じょうじ?」
「今みたいな感覚だ」
「えっと……たまにです」
「未来予知に近いな」
未来予知。
そんな大層なもんじゃない。
ただの嫌な予感だ。
先生は少し考え込み、それから言った。
「なるほど。王が興味を持つわけだ」
「持たないでほしかった」
そのとき。
「じゃあさ」
セシルがにやにやしながら前へ出た。
「僕ともやってみない?」
「嫌な予感しかしない」
「大丈夫大丈夫」
絶対大丈夫じゃない笑顔だった。
セシルは木剣を肩へ乗せる。
「避けるの得意なら、どこまで反応できるか試そうよ」
「嫌だなあ」
「いいじゃないか」
「良くない」
するとクローディア先生が即答した。
「やれ」
「先生!?」
「実戦訓練だ」
逃げ道が消えた。
セシルが楽しそうに笑う。
「安心して。手加減はするよ」
その瞬間。
また予感。
――こいつ、絶対手加減しない。
「エリシア」
「なに?」
「俺、今日死ぬかも」
「死なないわよ」
彼女は少し笑って、それから小さく付け加えた。
「……たぶん」
「たぶん!?」




