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王女が落ちてくる予感はしていた  作者: 蒼井みつき


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第7話 平民、教室で死にかける

 ホームルームとやらは、俺の想像よりずっと酷かった。


「うわ……」


 教室へ入った瞬間、視線が刺さる。


 三十人くらい。

 全員、貴族。

 制服まで高そう。


 そして俺だけ場違い。


 めちゃくちゃ場違い。


「席、ここよ」


 エリシアが隣を指す。


「隣!?」


「嫌?」


「嫌じゃないけど心臓に悪い」


 ざわつきがさらに大きくなった。


「隣に座るのか?」

「本当に特別扱いじゃないか……」

「やっぱり恋――」


「その単語禁止!」


 教室の後ろでセシルが腹抱えて笑ってる。


 助ける気ゼロだなあいつ。


 席についた瞬間、また予感がした。


 今度は小さい。


 でも確実に面倒。


「……来る」


「何が?」


 次の瞬間。


 ばんっ!


 教室の扉が勢いよく開いた。


「エリシア殿下が戻ったと聞いて!」


 飛び込んできたのは、小柄な男子生徒だった。


 茶髪。

 丸眼鏡。

 なんか犬っぽい。


 彼は一直線にエリシアの机へ駆け寄り――途中で俺を見て固まった。


「……誰?」


「それ昨日から百回くらい聞かれてる」


 エリシアがため息をつく。


「彼はリオ。私の――」


 少し詰まる。


 なんで詰まる。


「……友人よ」


 周囲がざわついた。


「今間があったぞ」

「友人って言おうとして照れた?」

「もう結婚しろよ」


「しない!」


「するかも」


「エリシア!?」


 さらっと何言った今。


 茶髪の男子は青ざめていた。


「ゆ、友人……男の……?」


「なんでお前がダメージ受けてる」


 彼はふらふらと後退する。


「そんな……僕というものがありながら……」


「誰だお前」


「失礼しました!」


 勢いよく頭を下げられた。


「僕はノア・フェルミナ! エリシア殿下親衛隊・副隊長です!」


「親衛隊」


 嫌な単語きた。


 エリシアが頭を抱えた。


「まだ存在してたのそれ……」


「当然です! 殿下の麗しさを守るために!」


「授業守れよ」


 ノアはびしっと俺を指差した。


「つまり君が噂の恋敵だね!?」


「違う」


「違わないかも」


「エリシア!?」


 なんで今日ぐいぐい来るの!?


 教室がまた騒がしくなる。


 そのとき。


「静かにしろ愚民ども」


 一瞬で空気が凍った。


 教室の入口に、女性教師が立っていた。


 長い紫髪。

 細い目。

 黒いローブ。


 美人。


 でも怖い。


 めちゃくちゃ怖い。


 全員が即座に席へ戻る。


 ノアですら縮こまった。


「一年二組担任、クローディアだ」


 声が低い。


 眠そうなのに威圧感がすごい。


 クローディア先生は名簿を見ながら言う。


「転入生がいるな」


 全員の視線が俺に集まる。


 帰りたい。


「前へ出ろ」


「はい……」


 処刑台へ向かう気分で教壇へ立つ。


 クローディア先生が俺を見る。


「名前」


「リオです」


「それは知ってる。自己紹介しろ」


 無茶振りだ。


 三十人の貴族が見てる。


 エリシアまで期待した顔してる。


 なんなんだ。


「……えっと」


 喉が渇く。


 予感がした。


 ここで変に格好つけると死ぬ。


 だから正直に言った。


「畑仕事が得意です」


 沈黙。


「あと鶏に負けます」


 さらに沈黙。


 次の瞬間。


 教室が爆笑した。


 セシルが机叩いて笑ってる。


 ミリアいないのに笑い声聞こえそう。


 エリシアまで肩震わせてる。


「お、お前……!」


「正直が一番かなって……」


 クローディア先生だけは無表情だった。


「なるほど」


 怖い。


「つまり戦闘能力は低いと」


「低いです」


「魔法は」


「使えません」


「学力は」


「たぶん低いです」


「なぜ入学させた王」


「俺も知りたい」


 また笑いが起きた。


 クローディア先生は深いため息をついた。


「……まあいい」


 いいんだ。


「では最初の授業だ」


 先生が黒板へ向かう。


「実戦訓練を行う」


 嫌な予感。


 めちゃくちゃ嫌な予感。


「ペアを組め」


 教室がざわつく。


 その瞬間、全員がさっと視線を逸らした。


 おい。


 誰も俺と組みたくない顔してる。


 わかるけど露骨!


 すると、隣で椅子が引かれた。


「私が組むわ」


 エリシアだった。


「え」


「嫌?」


「嫌じゃないけどまた噂が増える」


「もう手遅れよ」


 にこっと笑う。


 強い。


 王女強い。


 周囲から悲鳴みたいな声が上がった。


「殿下自ら!?」

「終わった……」

「親衛隊隊長が倒れるぞ……!」


 ノアが実際に机へ突っ伏した。


「僕のエリシア殿下が……」


「お前のじゃないわよ」


 エリシア、今日ちょっと容赦なくない?


 すると教室の後方から、静かな声がした。


「なら僕は余り物か」


 シオンだった。


 いつの間にいたんだ。


 怖。


 女子生徒たちがざわつく。


「シオン先輩……」

「今日授業出てたんだ……」


 レアキャラ扱いされてる。


 シオンは窓際の席から立ち上がり、ゆっくりこちらへ歩いてきた。


「リオ」


「なんだ」


「少し興味がある」


 嫌な予感しかしない。


「君、本当にただの平民?」


「そうだけど」


「じゃあ、なぜエリシア殿下は君を見る時だけ、そんな顔をするんだろうね」


 教室が静まり返った。


 エリシアの顔が一瞬で赤くなる。


「シオン!」


「事実だろ」


 俺は固まった。


「……どんな顔?」


 シオンは少し考えてから答える。


「好きな相手を見る顔」


 教室が爆発した。


「うわああああ!?」

「言った!!」

「公開告白!?」


「違っ……!」


 エリシアが真っ赤になる。


 俺の脳も止まりかける。


 その瞬間だった。


 ばんっ!!


 教卓が吹き飛んだ。


 全員が静止する。


 クローディア先生が、無表情のまま拳を振り抜いていた。


「授業中に恋愛劇を始めるな」


 めちゃくちゃ怖い。


 先生は静かに言う。


「次騒いだら全員グラウンド十周」


「「はい!!」」


 声が揃った。


 そして俺は思った。


 この学院で一番強いの、たぶん先生だ。

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