第5話 運命の恋人らしい
「へえ。君が例の田舎者?」
現れた男子生徒は、やたら爽やかな笑みを浮かべていた。
なのに予感が言っている。
――こいつ絶対ろくでもない。
「リオよ」
エリシアが少し警戒した声を出す。
「知ってるよ。今、学院中で有名だからね」
「やめてくれ」
男子生徒は優雅に一礼した。
「僕はセシル・フォン・レイヴン。一応、剣術科の首席候補って言われてる」
周囲がざわつく。
「セシル様だ」
「今年の本命……」
うわ。
有名人だった。
「……どうも」
「ずいぶん警戒されてるな」
「予感がするんで」
「予感?」
「面倒な人だって」
ミリアが吹き出した。
セシルは一瞬きょとんとしたあと、肩を震わせて笑い出す。
「ははっ、面白いな君!」
「褒められてる気がしない」
「褒めてるよ」
絶対違う。
セシルはエリシアへ向き直った。
「殿下が戻られたって聞いてね。しかも“運命の恋人”を連れて」
「だからその噂なんなんだ!」
周囲の生徒たちがざわつく。
「やっぱり本当なの!?」
「恋人って認めた!?」
「違うって意味じゃない!?」
「人の話聞け!」
地獄だ。
エリシアまで耳を赤くして俯いているし。
「……リオ、大声出さないで」
「誰のせいだと思ってる!」
セシルは楽しそうに目を細めた。
「いやあ、安心したよ」
「何が」
「殿下、前よりずっと楽しそうだから」
その言葉に、エリシアが少し驚いた顔をした。
「そう、かしら」
「うん。前はもっと息苦しそうだった」
セシルの笑みが少しだけ柔らかくなる。
あれ。
思ったより嫌なやつじゃない?
……いや、でも予感はまだ警戒してる。
「それで」
ほら来た。
「君、本当に平民なの?」
「そうだけど」
「魔法は?」
「使えない」
「剣術は?」
「鶏に負ける」
セシルが真顔になる。
「なんでここにいるの?」
「俺も知りたい」
周囲から笑いが漏れた。
そのとき、後ろから冷たい声が落ちる。
「その疑問には私も同意だ」
空気が変わる。
人垣が左右へ割れた。
そこにいたのは、長い黒髪の少女だった。
細い。
綺麗。
そして怖い。
氷みたいな青い目が、まっすぐこちらを見ている。
学院の制服を着ているが、雰囲気が他と違う。
「げ」
ミリアが露骨に嫌そうな顔をした。
「知り合い?」
小声で聞くと、エリシアがため息をつく。
「公爵令嬢のレティシアよ」
絶対強いやつじゃん。
レティシアは俺を見下ろした。
「殿下。なぜそのような者を学院へ?」
「父上の判断よ」
「正気とは思えません」
言うなあ。
セシルが苦笑する。
「レティシア、初対面だろ」
「事実を言ったまでです」
視線が痛い。
完全にゴミを見る目。
「……帰りたい」
「五回目ね」
エリシアが数え始めてる。
レティシアはさらに言った。
「平民が王族に近づけば、どうなるか理解していますか?」
「えっと……胃が痛い」
「そういう話ではありません」
怒られた。
でも正直、それしか感想がない。
すると突然、レティシアが細剣を抜いた。
「え?」
周囲がざわつく。
「レティシア?」
「実力もない者が学院にいる資格はありません」
切っ先がこちらへ向く。
「決闘を申し込みます」
「なんで!?」
学院来て十分くらいだぞ!?
エリシアが前へ出る。
「やめなさい、レティシア!」
「殿下は騙されています」
「騙されてない!」
「騙してない!」
俺も混ざった。
レティシアは冷たく言う。
「なら証明しなさい」
「何を」
「あなたが、殿下の隣に立つ価値のある人間だと」
無理難題すぎる。
俺ただの村人だぞ。
だが周囲の生徒たちは完全に盛り上がっていた。
「決闘だ!」
「面白くなってきた!」
「噂の恋人対決!?」
「だから恋人じゃない!」
エリシアが頭を抱えている。
セシルだけが面白そうに笑っていた。
そして俺は悟った。
学院生活。
開始初日で終わってる。




