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王女が落ちてくる予感はしていた  作者: 蒼井みつき


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第4話 王立学院

「嫌だ」


 翌朝、俺は即答していた。


「嫌です」


「二回言ったわね」


 エリシアが呆れた顔で紅茶を飲む。


 場所は王城の食堂。

 朝から無駄に広い。


 長いテーブルの端に座っているだけなのに、なんか処刑待ちみたいな気分になる。


「だっておかしいだろ」


 俺はパンを指差した。


「なんで朝飯食ってるだけで給仕が五人もいるんだよ」


「普通よ」


「王族怖……」


 昨夜はさらに酷かった。


 風呂が広すぎて溺れかけ、ベッドが柔らかすぎて眠れず、服を脱いだ瞬間に使用人が入ってきて心臓が止まりかけた。


 王城、油断すると死ぬ。


 グレイが優雅に咳払いする。


「本日、学院への編入手続きを行います」


「行いません」


「行います」


「人の意思!」


 ミリアがけらけら笑っていた。


「ほんと飽きないわね、リオ」


「お前ら絶対楽しんでるだろ」


「ええ」


 隠す気ゼロだった。


 すると食堂の扉が開く。


 アレクシス王子が入ってきた。


 空気が締まる。


「朝から騒がしいな」


「兄上、おはようございます!」


 ミリアは元気だが、俺は胃が痛い。


 アレクシスは席につきながら俺を見る。


「学院は嫌か」


「めちゃくちゃ嫌です」


「なぜ」


「貴族怖いからです」


「素直だな」


「あと絶対浮きます」


「もう浮いている」


「知ってます!」


 王子がほんの少し口元を緩めた。


 この人、最近わかってきた。


 笑いの沸点が変だ。


「安心しろ」


 アレクシスは淡々と言う。


「学院には問題児が多い」


「慰めになってない」


「お前もその一人になるだけだ」


「確定してる!?」


 エリシアが吹き出した。


「大丈夫よ。私もいるし」


「それが一番不安なんだよ」


「失礼ね」


 でも少し安心した。


 一人で放り込まれるわけじゃない。


 ……いや、だからといって安心できる場所かは別だけど。


 朝食後、俺は半ば引きずられる形で学院へ向かうことになった。


 王都の中央区画。


 王城より少し離れた高台に、それはあった。


「でか……」


 白い校舎が並び、巨大な時計塔が空へ伸びている。

 門だけで村の家より大きい。


 門柱には金文字。


 ――アルメリア王立学院。


「貴族と才能ある者が通う学校よ」


 エリシアが少し誇らしげに言う。


「俺、場違いすぎない?」


「今さら」


「最近みんなそれ言うな」


 門をくぐった瞬間、周囲の視線が集まった。


「……あれ、エリシア殿下?」

「本当に戻ってきた」

「隣の男、誰?」


 またそれか。


 しかも今回は人数が多い。

 制服姿の生徒たちが、露骨にこちらを見ている。


 俺は小声で呟いた。


「帰りたい」


「もう聞き飽きたわ」


「まだ十分経ってないぞ」


「今日は三回目」


 数人の男子生徒がひそひそ話していた。


「平民じゃないか?」

「なんで殿下と一緒に……」

「噂の相手ってあいつ?」


 嫌な単語が聞こえた。


「噂?」


 エリシアがすっと視線を逸らす。


「……少しだけ広まってるみたい」


「何が」


「その……」


 ミリアが横から満面の笑みで言った。


「“王女を攫った運命の恋人”」


「誰だ言い出したやつ!!」


 周囲がざわつく。


「本当なのか?」

「やっぱりそうなんだ……!」


「違うからな!? 勝手に盛るな!」


 顔が熱い。


 エリシアまで赤くなってるし。


「ミリア!」


「だって面白いもの」


 こいつ絶対ろくなことしない。


 その時だった。


「へえ」


 前方から声がした。


 人混みが割れる。


 一人の男子生徒がこちらへ歩いてきた。


 金髪。

 整った顔。

 学院の制服も妙に似合っている。


 だが笑顔が胡散臭い。


「君が例の田舎者?」


 第一印象、嫌なやつ。


 予感が言っている。


 かなり面倒なタイプだと。

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