第43話 平民、少しだけ惜しくなる
帰る日が近づくにつれて。
エリシアは露骨に静かになっていた。
今も。
縁側へ座って、
ぼんやり畑のほうを見ている。
「どうした」
「別に」
絶対別にじゃない。
一方。
少し離れた場所では、
ガルドが村の子どもたちと遊んでいた。
「うおっ!?」
「弱っ!」
「今のなし!」
完全に馴染んでるな。
リナはそれを笑いながら見ているし、
セシルは木陰でのんびりしている。
ダインなんか、
親父の薪割り手伝ってた。
順応力高すぎるだろ。
「……みんな楽しそうですね」
エリシアが小さく呟く。
「お前もだろ」
「私は王女ですよ?」
「今さらすぎる」
思わず言うと、
エリシアが吹き出した。
「たしかに」
ようやく少し笑った。
風が吹く。
畑が揺れる。
静かな時間だった。
「……王都へ戻ったら」
エリシアがぽつりと呟く。
「また普通に戻るんですよね」
王女。
学院。
貴族。
婚約問題。
面倒ごとだらけの日常。
「まあな」
「嫌です」
即答だった。
思わず笑ってしまう。
「そこ即答する?」
「だって、こっちのほうが好きです」
エリシアは、
少しだけ寂しそうに笑った。
「誰も“王女だから”って言わないので」
一瞬。
言葉に詰まる。
たしかに村の連中、
びっくりはしてたけど、
妙に普通なんだよな。
母さんなんか、
完全に近所の子扱いだし。
すると。
「リオー!」
向こうからガルドが叫んだ。
「勝負しろ!」
「嫌だ」
「逃げるな!」
「面倒なんだよ!」
子どもたちまで笑っている。
その光景を見ながら、
エリシアがふっと笑った。
「……いいですね」
「何が」
「こういうの」
その声は小さい。
でも。
たぶん本音だった。
その顔を見ていると。
終わりが近いのが、
少しだけ惜しく感じた。




