第41話 幼馴染、少しだけ気づいている
その日の夜。
風呂上がりに外へ出ると、
夜風が涼しかった。
村は静かだ。
王都みたいな喧騒もない。
聞こえるのは虫の声くらいで、
空には星が広がっている。
「いた」
声がして振り向く。
カヤだった。
「お前も風呂上がりか」
「ん」
短く頷き、
自然に俺の隣へ並ぶ。
昔からこんな感じだ。
無言でも別に気まずくない。
しばらく星を見上げていると、
カヤがぽつりと呟いた。
「王女様、村気に入ってるね」
「みたいだな」
「ずっと楽しそう」
たしかに。
畑ではしゃいで。
子どもと遊んで。
花畑で笑って。
最初に会った頃より、
ずっと表情が柔らかかった。
するとカヤが、
ふっと笑う。
「……リオも楽しそう」
「は?」
「最近そんな顔してなかった」
「そうか?」
「ん」
カヤは頷く。
「なんか前より余裕ある」
「気のせいだろ」
「そうかな」
そのまま少し沈黙が落ちる。
虫の声。
夜風。
静かな空気。
……悪くない。
すると。
「リオーーー!!」
遠くからガルドの叫び声が響いた。
「風呂空いたぞーー!!」
一瞬で空気ぶち壊しである。
「お前声でかっ!」
「村中に聞こえる!」
すると今度は家のほうから、
母さんの怒鳴り声が飛んできた。
「ガルドくんうるさい!!」
「すみませーん!!」
全然反省してない声だった。
カヤが呆れたように息を吐く。
「台無し」
「ほんとにな」
だが。
少し笑ってしまった。
するとカヤが、
じっとこっちを見る。
「でも今日、ちょっと面白かった」
「何が」
「『嫌いではない』」
「うっ」
思わず変な声が出た。
「聞いてたのかよ」
「村であれだけ騒がれて聞こえないほうが無理」
最悪だ。
「子どもたち、めちゃくちゃ盛り上がってたし」
「やめろ思い出したくない」
「王女様真っ赤だった」
「やめろって!」
するとカヤが、
少しだけ楽しそうに笑った。
「で?」
「何が」
「好きなの?」
直球だった。
「……」
否定しようとして。
言葉が止まる。
頭に浮かぶのは、
今日のエリシアばかりだった。
笑う顔。
照れた顔。
楽しそうな声。
そして。
『……帰りたくなくなりますね』
あの寂しそうな声。
「……たぶん」
小さく答える。
するとカヤは、
少しだけ目を細めた。
「そっか」
それだけだった。
いつもの調子。
でも。
「まあ、リオわかりやすいし」
「は?」
「顔に出る」
「出てねえよ」
「出てる」
即答だった。
そのとき。
「リオーー!!」
またガルドの声。
「早く来いよーー!!」
「うるせえ!!」
思わず怒鳴り返すと、
隣でカヤが吹き出した。
……やっぱり、
静かすぎる夜より、
これくらい騒がしいほうが落ち着くのかもしれない。




