第40話 王女、帰りたくなくなる
子どもたちに散々囲まれたあと、
俺たちは村の外れまで歩いていた。
畑の向こうには小さな花畑が広がっていて、
風が吹くたび色とりどりの花が揺れている。
「……綺麗」
エリシアが小さく呟いた。
さっきまで真っ赤だった顔も、
ようやく少し落ち着いたらしい。
一方、
ガルドたちは少し後ろを歩いている。
「青春だったなー」
「茶化すな」
「でもほぼ告白じゃん」
セシルまで面白がって乗ってきた。
最悪だ。
その横で、
ダインは静かに花畑を眺めていた。
「王都とは空気が違うな」
「まあな」
「息が詰まらない」
その言葉に、
エリシアが少しだけ反応する。
だが、
すぐに笑って誤魔化した。
「王都にも綺麗な場所はありますよ?」
「でも違うんだろ」
俺がそう言うと、
エリシアは少しだけ黙り込む。
やがて小さく頷いた。
「……はい。王都の花って、“飾るもの”なんです」
そう言いながら、
エリシアはそっと花へ触れる。
「でも村の花は、ここにあるのが自然って感じがして」
その声は、
どこか羨ましそうだった。
王城で育ったこいつには、
こういう景色すら特別なのかもしれない。
そのとき。
「できたぞー!」
後ろからガルドの声が響いた。
「何が」
「花冠!」
見ると、
ガルドがめちゃくちゃ歪な花冠を掲げていた。
「下手!」
リナが即座に笑う。
「うるせえ! 初めてなんだよ!」
一方。
セシルは妙に感心していた。
「いや、逆によく形になったねそれ」
「褒めてる?」
「半分くらい」
するとガルドは、
なぜか自信満々にエリシアへ近づく。
「王女様! これやる!」
「えっ、私ですか?」
「似合いそう!」
エリシアは少し驚いたあと、
嬉しそうに笑った。
「ありがとうございます」
そして普通につけた。
一瞬。
全員黙る。
「……似合うな」
思わず呟いていた。
すると。
「おっ」
「ほう」
「今の無意識?」
リナとセシルが即反応した。
「うるせえ!」
一方。
エリシアは花冠を触りながら、
少しだけ照れたように笑っていた。
そのとき。
「殿下」
レティシアが静かに声をかける。
「そろそろ戻る時間を考えてください」
一瞬、
エリシアの表情が止まる。
「……もうそんな時間ですか」
「本来なら、もっと早く戻る予定でした」
まあ、
朝からずっと遊び回っていたしな。
エリシアは少し寂しそうに、
村の景色を見回した。
畑。
土の道。
笑っている子どもたち。
王城とはまるで違う、
ゆっくりした空気。
「……帰りたくなくなりますね」
ぽつりと零れた声は、
妙に本音っぽかった。
すると母さんが、
明るく笑う。
「また来ればいいじゃない!」
「いいんですか?」
「いつでも来なさい!」
軽いなこの人。
だが、
エリシアは本当に嬉しそうだった。
「……はい!」
その笑顔を見ていると、
終わるのが少し惜しいと思ってしまう。
すると横で、
ガルドが真顔で呟いた。
「俺も帰りたくねえ」
「お前は帰れ」
「なんで!?」




