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王女が落ちてくる予感はしていた  作者: 蒼井みつき


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第36話 幼馴染、普通に家にいる

 その日の夜。


 うちの居間は、

 完全に人で埋まっていた。


「狭っ!」


 ガルドが叫ぶ。


「文句あるなら外で食え」


「嫌だ!」


 即答だった。


 普段は家族三人で使っている居間へ、

 無理やり椅子や箱を持ち込み、

 どうにか全員を押し込んでいる状態だ。


 だが。


「……なんか落ち着きますね」


 エリシアは妙に嬉しそうだった。


 母さんなんか、

 完全に張り切っている。


「いっぱい食べなさいね!」


「ありがとうございます!」


 返事が良すぎる。


 一方。


 親父は酒を飲みながら、

 静かに王都組を眺めていた。


「賑やかだな」


「半分くらい勝手についてきた」


「半分なんだ」


 全部ではない。


 たぶん。


 その横で、

 セシルが食卓を見回しながら笑った。


「なんか不思議だね」


「何が」


「リオが普通に村人やってる」


「村人だよ」


「学院だと毎日面倒ごと起きてるからさ」


「誰のせいだと思ってる」


 セシルが吹き出す。


 一方。


 ダインは静かにスープを飲みながら、

 周囲を見回していた。


「……いい空気だな」


「お前もう馴染んでない?」


 ガルドが呆れたように言う。


「こういう場所、嫌いじゃない」


 意外と順応が早い。


 そのとき。


「お邪魔しまーす」


 聞き慣れた声と一緒に、

 カヤが普通に入ってきた。


「来ると思った」


「毎日来てるし」


 否定しないんだな。


 カヤは慣れた様子で席へ座ると、

 当然みたいに俺の隣へ収まった。


「ん」


 ついでみたいにパンを押しつけてくる。


「なんでお前が配ってんだ」


「慣れてるから」


 母さんまで頷いた。


「カヤちゃん気が利くのよー」


「ほぼ家族じゃん」


 ガルドが普通に言う。


 一瞬。


 エリシアが少しだけ視線を逸らした。


 ……あ。


 なんとなくわかった。


 こいつ、

 ちょっと気にしてる。


 するとリナが、

 面白そうに笑う。


「カヤさんって、昔からこんな感じ?」


「まあ、ずっと一緒だったし」


 カヤがさらっと答える。


「へえー」


 絶対面白がってるな、その顔。


 一方。


 エリシアは静かに食卓を見回していた。


 親父。


 母さん。


 カヤ。


 騒ぐガルド。


 笑ってるリナ。


 静かなダイン。


 面白がってるセシル。


 狭い家の中で、

 声と笑いが途切れず飛び交っている。


「……王城と全然違います」


 ぽつりと、

 エリシアが呟いた。


「もっと静かですし、人数も多いので」


「疲れそう」


 カヤが素直に言う。


「疲れます」


 即答だった。


 思わずリナが吹き出す。


 だが。


 エリシアは少し笑ったあと、

 小さく言った。


「でも、こっちのほうが好きかもしれません」


 一瞬。


 なんとなく空気が静かになる。


 その顔を見ていると。


 この王女、

 本気で村を気に入り始めてるなと思った。

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