第31話 平民、また連行される
「少し来い」
アレクシスの一言で、食堂の空気が止まった。
周囲の視線が一気にこっちへ集まる。
「……なんで」
「話がある」
「ここじゃだめですか」
「だめだ」
即答だった。
怖い。
エリシアが心配そうにこちらを見る。
「兄上、また無茶しませんよね?」
「しない」
「信用できないんだけど」
リナが小声で呟いた。
わかる。
ガルドなんか妙にわくわくしてるし。
「特訓か!?」
「違うと信じたい」
アレクシスはそれ以上何も言わず、食堂出口へ向かって歩き出した。
完全に拒否権がない。
「……行ってくる」
「頑張って」
セシルが笑顔で手を振ってきた。
他人事だと思って。
食堂を出る。
廊下を歩く。
隣を歩くアレクシスは相変わらず無言だった。
怖い。
しかも周囲の生徒たちがめちゃくちゃ見てくる。
「あれリオだ」
「また王太子殿下と……」
やめて。
静かに生きたい。
「……で、何の話ですか」
恐る恐る聞く。
アレクシスは少しだけこちらを見た。
「休暇の件だ」
「休暇?」
「お前、村へ帰るんだろう」
「帰りますけど」
すると。
「……やっぱり帰るのね」
後ろから声がした。
振り向く。
エリシアだった。
「なんで来たの」
「気になったから」
絶対盗み聞きしてたなこれ。
エリシアは少しだけ迷うような顔をしたあと、小さく口を開いた。
「……村って、そんなに普通なの?」
「普通だけど」
「畑しかない?」
「畑しかないわけじゃない」
「川は?」
「ある」
「山は?」
「ある」
エリシアの目が少し輝く。
嫌な予感。
「……やっぱり気になるかも」
「だめです」
即答した。
「なんで!?」
「王女が来る場所じゃない」
「お忍びで!」
「お忍びの時点で普通じゃないだろ!」
エリシアがむぅ、と不満そうに頬を膨らませる。
その横で、アレクシスが静かに口を開いた。
「エリシア単独は認めない」
「そりゃそうでしょうね……」
「同行するなら護衛が必要だ」
まあ、そこはわかる。
王女だし。
むしろ護衛なしのほうが大問題である。
「いや待て待て待て」
思わず頭を抱えた。
「なんで“来る前提”で話進んでるんですか!?」
エリシアがぱっと顔を上げる。
「だ、だってまだ決まってないわよ!?」
「目が完全に行く気なんだよ!」
そのとき。
「へえ」
後ろから聞き覚えのある声。
振り向く。
ダインだった。
「なんでいるの」
「通りかかっただけ」
絶対嘘だ。
ダインは面白そうにこちらを見る。
「村帰るんだ?」
「来るなよ」
「まだ何も言ってないって」
顔が言ってる。
ダインは笑ったまま、エリシアを見る。
「王女殿下まで行くなら、面白そうだね」
「面白がるな」
「だって絶対騒ぎになるじゃん」
それはそう。
というか、だから嫌なんだ。
するとアレクシスが数秒考えたあと、静かに口を開いた。
「お前なら護衛役としては問題ないな」
「採用された」
「なんで!?」
嫌な予感しかしなかった。




