第30話 平民、帰省準備を始める
合同大会翌日。
学院は、休暇前とは思えないくらい騒がしかった。
「絶対お前のせいだよ」
食堂へ入った瞬間、セシルが笑った。
周囲の視線。
明らかにこっち向いてる。
「あの一年だ」
「剣術科第三とやり合った……」
「平民なのに指揮してたやつ」
やめて。
聞こえてる。
「だから嫌だったんだよ……」
「有名人じゃん」
「全然嬉しくない」
トレーを持ったまま空いている席へ座る。
すると、すぐ横へガルドがどかっと腰を下ろした。
「おはよう!」
「朝から声でかいな」
「元気だからな!」
「知ってる」
向かいにはレティシア。
さらにリナまでやってくる。
「いやー、でも昨日面白かったな!」
「お前は楽しそうだったよな」
「リオ逃げ回ってたし!」
「好きで逃げてねえ!」
食堂のあちこちから笑いが聞こえた。
完全に昨日の試合、見られてたなこれ。
逃げたい。
そのとき。
「おはよう」
エリシアだった。
今日は学院制服姿だ。
周囲がまたざわつく。
そりゃそうだ。
王女が普通にこっち来てる。
しかも自然に俺の隣へ座った。
慣れたなこの人。
「体、大丈夫?」
「筋肉痛くらい」
「それ結構痛いやつじゃない」
「痛い」
エリシアがくすっと笑う。
その空気に、周囲のざわめきがさらに増した。
「王女殿下、またあの平民と……」
「距離近くない?」
やめて。
ほんとやめて。
だがエリシア本人はまったく気にしていない。
「それで、いつ帰るの?」
「明日の朝かな」
「早いわね」
「休暇短いし」
学院から村まではそこそこ距離がある。
移動だけでも数日かかる。
ゆっくりしてたら、帰った瞬間また戻ることになる。
「村って遠いの?」
「馬車で数日」
「へえ……」
エリシアは少し興味深そうだった。
嫌な予感。
すると。
「いいなあ、田舎」
リナまで乗っかる。
「空きれいそう!」
「星も綺麗そうですね」
レティシアまで言い出した。
やめろ。
なんでみんな来る流れなんだ。
「普通の村だって」
「そこが気になるんだよ」
セシルが笑う。
「俺ら王都育ちだし」
「いやでも王族来る場所じゃ――」
「まだ行くって言ってないわよ?」
エリシアが少しだけむっとした顔で言った。
「顔が言ってる」
「言ってない!」
全然そんなことなかった。
エリシアは少し考え込むように頬杖をつく。
「……でも、ちょっと気になるかも」
「やめろ」
即答した。
「なんで!?」
「王女が来る場所じゃない」
「お忍びなら?」
「お忍びの時点で普通じゃないだろ!」
食堂に笑いが広がる。
その横で、セシルが吹き出した。
「ははっ。王女殿下、結構本気だね」
「ち、違うわよ!」
否定してるわりに、全然諦めてる顔じゃなかった。
そのとき。
食堂入口側がざわついた。
また空気変わった。
「あ」
見なくてもわかる。
アレクシスだった。
周囲の生徒が勝手に道を空けていく。
この人ほんと何なの。
アレクシスはそのままこちらへ歩いてくると、静かに止まった。
「リオ」
「はい」
「少し来い」
嫌な予感しかしなかった。




