第29話 平民、休暇へ突入する
「へえ、村帰るんだ」
ダインが面白そうに笑う。
嫌な予感しかしない。
「来るなよ」
「まだ何も言ってないけど?」
「顔が言ってる」
ダインは楽しそうに肩をすくめた。
その横で、セシルが吹き出す。
「ははっ、完全に警戒されてる」
「だってこいつ怖いし」
「傷つくなあ」
全然傷ついてなさそうだった。
そのとき、教師が再び競技場中央へ出る。
「参加者は速やかに解散! 休暇明けの予定は後日掲示する!」
周囲の生徒たちがぞろぞろ移動し始めた。
合同大会は本当に終わったらしい。
ようやく解放される。
その事実だけで少し安心した。
「じゃあ俺、帰るわ」
「寮一緒だろ」
セシルに突っ込まれる。
たしかに。
疲れすぎて頭回ってなかった。
その横で、ガルドはまだ悔しそうだった。
「次は絶対勝つ!」
「お前元気だな……」
「燃えてきた!」
「燃え尽きろ」
リナが笑う。
レティシアはそんなやり取りを見ながら、小さく息を吐いた。
「ですが、収穫は大きかったですね」
「収穫?」
「連携です」
レティシアは静かにこちらを見る。
「最初は噛み合っていませんでしたが、途中からかなり動きやすくなっていました」
「まあ、リオがいたしね」
セシルが笑う。
「指示、わかりやすかったよ」
「そうか?」
「うん」
ガルドも大きく頷いた。
「かなり動きやすかった!」
「上からも見やすかったぞー!」
リナまで乗っかってくる。
なんか褒められてる。
落ち着かない。
「……たまたまだって」
「それであそこまでやれない」
レティシアが即答した。
やめて。
その空気の中で。
アレクシスだけは静かにこちらを見ていた。
「休暇はいつ帰る」
「え?」
「村だ」
「あー……たぶん明後日くらいには」
そう答えた瞬間。
エリシアがぱっと顔を上げた。
「村って、どんなところなの?」
「普通の村だけど」
「普通って?」
「畑あって、山あって、川ある」
「雑!」
いや本当に普通なんだって。
王都みたいに立派な建物もないし、騎士団もいない。
のんびりした田舎だ。
そう説明すると、エリシアはなぜか少し楽しそうに笑った。
「……ちょっと行ってみたいかも」
「やめろ」
即答した。
「なんで!?」
「王女が来る場所じゃない」
「お忍びなら?」
「もっとだめだろ」
絶対騒ぎになる。
だが、エリシアは不満そうに頬を膨らませた。
その横で。
「へえ」
ダインまで反応する。
やめろ。
「田舎かあ」
「お前も来るな」
「まだ何も言ってないって」
絶対来ようとしてる顔だった。
そのとき。
「兄上」
エリシアが小さくアレクシスを見る。
「兄上、休暇中って外出許可ありましたよね?」
おい。
嫌な流れやめろ。
アレクシスは数秒黙ったあと、静かに口を開いた。
「あるな」
「……」
だめだこれ。
絶対ろくなことにならない。




