第28話 平民、負けたのに目立つ
「剣術科第三の勝利!」
教師の声と同時に、競技場が歓声で揺れた。
「うおおおおっ!!」
「一年混成やばかったぞ!」
「マジで食らいついてた!」
いや負けたんだけど。
俺はフィールド端へ座り込みながら、大きく息を吐いた。
「疲れた……」
全身が重い。
特に精神。
ずっとダインに追い回されてたせいで、胃が痛い。
「おつかれー!」
上空から降りてきたリナが、そのまま俺の隣へ座り込んだ。
「最後めっちゃ危なかったな!」
「お前もだろ」
「対空魔法えぐかった!」
リナはぶーぶー文句を言いながら水筒を開ける。
その横では、ガルドが悔しそうに頭を掻いていた。
「くそー! あと少しだったのに!」
「いや十分すごかったと思うけど」
「次は勝つ!」
元気だなこいつ。
セシルは苦笑しながら肩をすくめた。
「でもまあ、剣術科第三相手にここまでやれるとは思わなかったよ」
「認めます」
レティシアまで頷く。
「連携自体は、こちらのほうが上回っていた場面もありました」
「最後押し切られたけどな……」
ダインが強すぎた。
というか、なんであいつずっと俺しか見てなかったんだ。
「リオ!」
観客席からエリシアが駆け下りてきた。
「大丈夫!?」
「一応……」
「一応って顔じゃないわよ」
そんな疲れた顔してるだろうか。
してるな。
エリシアは少しほっとしたように笑った。
「でも、すごかった」
「負けたぞ?」
「それでもよ」
エリシアが観客席のほうを見る。
つられて視線を向ける。
まだかなりざわついていた。
「あの一年誰?」
「平民なんだろ?」
「指揮やばくなかった?」
やめて。
聞こえてる。
そのとき。
ざわっ、と周囲の空気が変わった。
人が左右へ下がる。
見なくてもわかる。
「兄上……」
アレクシスだった。
相変わらず威圧感すごい。
なんで歩いてくるだけで空気変わるんだこの人。
アレクシスは俺たちの前で止まると、静かにフィールドを見回した。
「悪くなかった」
「……どうも」
褒められてるのに全然安心できない。
「特に終盤」
金色の目がこちらを見る。
「崩れながら、立て直そうとしていたな」
「必死だっただけです」
「それをやれる一年は少ない」
アレクシスは淡々と言う。
その横で、ガルドが嬉しそうに笑った。
「だよな!」
「お前が嬉しそうなんだよ」
「だってリオすごかったし!」
ばんばん背中を叩かれる。
痛い。
そのとき。
「ほんと面白かった」
後ろから声。
振り向く。
ダインだった。
木剣を肩へ担いだまま、楽しそうに笑っている。
「お前まだ来るの?」
「だめ?」
「だめ」
即答した。
だがダインは気にした様子もない。
細い目が、またこちらを見る。
「やっぱお前いると、チームの動き変わるんだよなあ」
「だから知らんって」
「しかも避けるし」
「そっちが怖すぎるんだよ!」
観客席からまた笑いが起きる。
なんなんだこれ。
負けたんだよな俺たち?
その空気の中で。
アレクシスだけは静かにダインを見ていた。
「……ダイン」
「はい?」
「遊びすぎだ」
「バレた?」
「当然だ」
ダインが笑う。
否定しないんだ。
怖っ。
そのとき、教師の声が競技場へ響いた。
「合同大会は本日ここまで! 明日から学院は短期休暇へ入る! 参加者は各自解散!」
周囲の生徒たちが一斉に動き始める。
ようやく終わった。
本当に終わった。
俺は心の底から息を吐く。
「帰りたい……」
すると。
「なら、ちょうどいいかもしれないな」
アレクシスがぽつりと言った。
「……は?」
金色の目がこちらを見る。
「休暇中、一度村へ戻るんだろう?」
その言葉に、一瞬固まる。
そういえば。
学院へ来てから、まだ一度も帰っていなかった。
村。
家。
親父と母さん。
そこまで考えた瞬間。
急に、ものすごく帰りたくなった。
「帰る……」
「顔が本気ね」
エリシアが苦笑する。
いやだって。
王族。
合同大会。
剣術科。
ダイン。
もう疲れた。
普通の空気が恋しい。
だが、その瞬間。
「へえ、村帰るんだ」
ダインが面白そうに笑った。
嫌な予感しかしない。




