第23話 平民、合同大会へ放り込まれる
合同大会当日。
学院は朝から異様な熱気に包まれていた。
「人多っ……」
俺は学院中央広場を見回しながら、思わず呟いた。
各学科の生徒たちがそこら中を歩き回っている。
剣術科。
魔法科。
空遊科。
騎士科。
普段あまり見ない上級生まで集まっていて、完全に祭り状態だった。
「そりゃ学院最大イベントだからね」
隣でセシルが笑う。
今日はいつもの軽装じゃなく、学院指定の黒い戦闘服だった。
相変わらず似合う。
悔しい。
「お前、なんでそんな余裕なんだよ」
「楽しみだから」
「俺は帰りたい」
「今さら?」
そのとき。
後ろから勢いよく肩を叩かれた。
「おはようリオ!」
「痛っ!」
ガルドだった。
朝から元気すぎる。
「今日は勝つぞ!」
「いやまだ始まっても――」
「勝つぞ!」
「圧が強い!」
リナが箒を抱えたまま笑う。
「ガルド、朝からうるさい!」
「気合いだ気合い!」
「近所迷惑レベルなんだよなあ……」
そこへ、レティシアも合流した。
「全員いますね」
「なんか確認みたいに言うな」
「リナが遅刻すると思っていました」
「ひどくない!?」
いつもの空気だ。
なのに。
胸の奥だけが落ち着かなかった。
嫌な感じ。
ざわざわする。
「……?」
「リオ?」
エリシアが不思議そうにこちらを見る。
今日は観戦側らしく、学院の制服姿だった。
「どうかした?」
「いや、なんか……」
うまく言葉にできない。
だが、そのとき。
広場の奥がざわついた。
「来たぞ」
「剣術科第三チームだ」
視線が集まる。
人混みの向こうから、数人の男子生徒が歩いてきた。
その先頭。
細い目の男が、こちらを見て笑う。
「へえ」
ぞわっ、と背筋が冷えた。
なんだこいつ。
笑ってるのに怖い。
男はそのまま真っ直ぐこちらへ歩いてくる。
「お前がリオ?」
「……そうだけど」
すると男は、面白そうに目を細めた。
「やっぱり普通だなあ」
「初対面で失礼じゃない?」
「ごめんごめん」
全然悪びれてない。
周囲が少しざわつく。
「ダインだ……」
「剣術科第三の隊長」
聞こえてきた声に、セシルが小さく眉を上げた。
「へえ。有名人」
「そっちもね」
ダインは軽い調子で返す。
だが視線だけは、ずっとこちらへ向いたままだった。
なんか嫌だ。
値踏みされてる感じがする。
「……何」
「別に?」
ダインは笑ったまま肩をすくめる。
「ただ、お前ちょっと面白そうだなって」
「嬉しくない」
即答した。
ガルドが前へ出る。
「リオに何か用か?」
「いや? 挨拶だけ」
そう言いながらも、ダインはまだこちらを見ていた。
細い目が、妙に楽しそうに細められる。
「合同大会、楽しみにしてる」
「俺はしてない」
「ははっ」
ダインは笑いながら踵を返した。
そのまま剣術科の連中と一緒に去っていく。
だが。
最後まで、一度もこちらから目を離さなかった。
「……なんだあいつ」
思わず呟く。
すると、セシルが小さく笑った。
「気に入られたんじゃない?」
「最悪なんだけど」
その瞬間。
学院中央に、大きな鐘の音が響いた。
ごぉん、と重い音。
広場の空気が一気に引き締まる。
「合同大会参加者は、第一競技場へ集合!」
教師の声が響き渡る。
周囲の生徒たちが一斉に動き始めた。
いよいよ始まる。
そのはずなのに。
胸の奥のざわつきだけは、なぜか少し強くなっていた。




