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王女が落ちてくる予感はしていた  作者: 蒼井みつき


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第21話 平民、さらに目立つ

 模擬戦が終わったあとも、訓練場の熱気はなかなか冷めなかった。


 観客席では生徒たちが興奮した様子で騒いでいる。


「三年相手に勝ったぞ!?」

「しかも一年混成チーム!」

「あの平民、なんなんだ……?」


 やめて。


 聞こえてるから。


 俺はフィールド脇の木箱へ腰を下ろし、大きく息を吐いた。


「疲れた……」


 全身が重い。


 指揮ってこんなに神経使うのか。


 すると、エリシアが水筒を差し出してくる。


「お疲れさま」


「神か?」


「王女よ」


「最近その返し気に入ってるだろ」


 水を飲む。


 冷たくて生き返った。


 その様子を見ていた周囲が、またざわつき始める。


「やっぱ仲良いよな……」

「距離近くない?」

「運命の恋人説、マジでは?」


「違うからな!?」


 反射的に叫ぶ。


 だが時すでに遅し。


 わっと人が押し寄せてきた。


「リオ君!」

「今のどうやったの!?」

「セシル様に指示飛ばしてたよな!?」

「なんであのタイミングわかったんですか!?」

「殿下とはいつから付き合ってるんですか!?」


「最後混ざるな!」


 囲まれた。


 完全に囲まれた。


 逃げ場がない。


 セシルは少し離れた場所で笑っている。


「人気者だねえ」


「助けろ!」


「面白いからやだ」


 最低だこいつ。


 ガルドはガルドで興奮していた。


「やっぱすげえよリオ!」


 ばんばん背中を叩かれる。


「痛い痛い!」


「全部見えてたんだろ!?」


「見えてない!」


 リナも箒を抱えたまま飛び込んできた。


「でも指示めっちゃわかりやすかったぞ!」


「なんでだよ」


「なんか、“今だ!”って感じする!」


 説明がふわっとしてるな。


 だが、その感覚は少しわかった。


 俺自身も、なんで動けてるのか説明できない。


 ただ、なんとなくわかる。


 今どこが危ないか。


 どこなら通るか。


 誰が次に動くか。


 そんな感覚だけが、妙にはっきりしていた。


「……」


 視線を感じて振り向く。


 少し離れた場所に、レティシアが立っていた。


 銀髪を揺らしながら、じっとこちらを見ている。


「なんだよ」


「聞きたいことがあります」


 真面目な顔だった。


「あなた、本当に戦術訓練は受けていないんですか?」


「戦術?」


「周囲を見る速度が異常です」


「そんなこと言われても」


 村で畑耕してただけなんだけど。


「普通、あの状況で全員へ同時に指示は出せません」


「いや必死だったんだよ」


「それでできるのがおかしいんです」


 知らんがな。


 そのときだった。


 訓練場入口のほうがざわつく。


 見物していた生徒たちが、道を開けるように左右へ下がっていく。


 その奥から、黒い軍服姿の男がゆっくり歩いてきた。


 長い赤髪。

 鋭い金色の目。


 見間違えるはずがない。


「兄上?」


 エリシアが目を見開く。


 アレクシスだった。


 周囲の空気が一気に張り詰める。


「王太子殿下だ……」

「なんで訓練場に?」


 本人はそんな視線を気にした様子もなく、真っ直ぐこちらへ歩いてきた。


 怖い。


 なんでこの人、歩いてくるだけで威圧感あるんだ。


「……リオ」


「は、はい」


「少し来い」


「嫌な予感」


「安心しろ」


 全然安心できない。


「殺しはしない」


「“は”って何!?」


 周囲がざわつく。


 エリシアが呆れたようにため息をついた。


「兄上、脅かさないで」


「脅かしてはいない」


 絶対嘘だ。


 アレクシスはフィールド中央へ視線を向けた。


 砕けた氷壁や焦げ跡が、さっきの激戦をまだ残している。


「見ていた」


 低い声だった。


「お前の指揮、悪くない」


「……どうも」


 褒められてるのに全然落ち着かない。


「だが、まだ甘い」


 来た。


 アレクシスの金色の目が細くなる。


「最後、お前自身が狙われた瞬間、全体の流れが止まった」


 どきりとした。


 確かに、あの瞬間は自分のことで頭がいっぱいだった。


「指揮役が視野を失えば、チームは崩れる」


 正論すぎる。


 反論できない。


 すると、横からガルドが口を開いた。


「なら鍛えればいい!」


 まっすぐだった。


「リオはまだ強くなる!」


 セシルも笑う。


「実際、初めてにしては異常なくらいうまかったしね」


「認めます」


 レティシアまで頷いた。


 リナは箒をくるっと回す。


「次はもっと派手にやろう!」


「お前は少し落ち着け!」


 わちゃわちゃ騒ぐ声を聞きながら、アレクシスだけは静かにこちらを見ていた。


 その視線に、胸の奥が少しざわつく。


 まるで何かを確かめるみたいな目だった。

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