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王女が落ちてくる予感はしていた  作者: 蒼井みつき


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第20話 平民、勝ってしまう

 静まり返っていた訓練場が、遅れてざわめきに包まれた。


「止めた……」

「三年の大規模魔法を?」

「嘘だろ」


 観客席の生徒たちが、信じられないものを見る目でこちらを見ている。


 フィールド中央では、砕けた魔法陣の光がまだ空中に散っていた。


 いや本当に。


 俺もそう思う。


 だが、相手の巨大魔法は完全に崩れていた。


 レティシアが細く息を吐く。


 銀色の髪が揺れ、魔法の余熱で周囲の空気がわずかに白んだ。


「……間に合いました」


「すげえ……」


「あなたの指示です」


 青い瞳が真っ直ぐこちらを見る。


「タイミングが完璧でした」


 そんなこと言われても困る。


 なんとなく、

“そこだ”

って感じただけだ。


 そのときだった。


「まだ終わってねえぞ!」


 ガルドの声が訓練場へ響く。


 そうだった。


 まだ模擬戦の最中だ。


 相手チームもすぐに立て直してくる。


「一年のくせに……!」


 三年の前衛が剣を構え、石畳を蹴った。


 速い。


 一歩で距離を詰めてくる。


 ガルドが正面から受け止め、剣同士がぶつかって火花を散らした。


「ぐっ!」


「ガルド!」


 押されてる。


 単純な力比べじゃ分が悪い。


 胸の奥がざわついた。


 嫌な流れだ。


 このままだと前衛が崩される。


 俺は視線を巡らせる。


 相手の位置。

 味方の動き。

 空気の流れ。


 するとまた、不思議な感覚が走った。


 ほんの一瞬だけ、“繋がる道”が見える。


「セシル!」


「なに?」


「左!」


「了解」


 返事と同時にセシルが動く。


 制服の裾を翻し、一直線に相手側面へ滑り込んだ。


「っ!?」


 三年生の反応が遅れる。


 その隙だった。


「おらぁぁぁ!!」


 ガルドの一撃が叩き込まれる。


 鈍い音とともに、相手が大きく吹き飛んだ。


 観客席から歓声が上がる。


「今の連携!?」

「一年かよ!」


 上空では、リナが箒を傾けながら笑っていた。


「すげーなリオ!」


「俺もびっくりしてる!」


 すると。


 胸の奥で、また予感が跳ねた。


 上。


「リナ避けろ!」


「え?」


 直後、風弾が空を裂いた。


「うわっ!?」


 リナが慌てて体を捻る。


 風弾が頬をかすめ、そのまま後方の壁へ突き刺さった。


 危なっ。


 相手後衛、まだ残ってる。


「ちっ、厄介な指揮役だな」


 後衛の男子生徒が舌打ちする。


 え、俺?


 その瞬間だった。


 背筋を冷たいものが走る。


 視線。


 殺気。


「……っ!」


 反射的に振り向く。


 いつの間にか、一人が背後まで接近していた。


 やば。


 避け――


「危ない!」


 鋭い声。


 次の瞬間、俺の前へ氷壁が展開された。


 どんっ!!


 激しい衝撃音。


 氷が砕け、白い破片が周囲へ飛び散る。


「無事ですか!?」


 レティシアだった。


 珍しく声が大きい。


 彼女は俺の前へ立ち、細剣を構えたまま相手を鋭く睨んでいる。


「……後ろを取られるなんて」


「悪い」


「今はいいです」


 即答だった。


 なんかちょっと頼もしい。


 そのとき。


「そこまで」


 クローディア先生の声が訓練場へ響いた。


 空気が止まる。


 先生はゆっくり中央へ歩き出し、周囲を見回した。


「勝者、一年混成チーム」


 一瞬の静寂。


 そして次の瞬間、訓練場が歓声に包まれた。


「勝ったぁぁ!?」

「マジかよ!」

「三年相手だぞ!?」


 ガルドが両拳を突き上げる。


「うおおおお!!」


 リナは空中でくるくる回っていた。


「楽しー!!」


 セシルは笑いながら剣を収める。


「いやあ、これは予想外」


 レティシアだけは静かだった。


 だが、砕けた氷の向こうで見る横顔は、ほんの少しだけ誇らしそうに見えた。


 そして。


 なぜか全員の視線がこちらへ向く。


「……なんで?」


 クローディア先生が腕を組んだ。


「指揮が良かった」


「え」


「お前、流れを読むのが異常に上手いな」


 ざわっ、と周囲がどよめく。


「確かに……」

「全部タイミング合ってた」

「偶然じゃなくない?」


 やめて。


 そんな注目しないで。


 セシルが笑いながら肩へ腕を回してくる。


「いやあ、名指揮官」


「やめろ」


 ガルドまで満面の笑みだった。


「リオがいると戦いやすい!」


「そうか?」


「はいはい!」


 リナまで元気よく手を挙げる。


 レティシアは少し迷ってから、小さく息を吐いた。


「……否定はしません」


 少し離れた場所では、エリシアがこちらを見て笑っていた。


 嬉しそうだった。


 その顔を見た瞬間、胸の奥が少しだけ熱くなる。


 学院生活なんて、もっと静かで退屈なものだと思っていた。


 だが現実は違う。


 問題児ばかりのチーム。

 騒がしい仲間たち。

 そして、次々起こる面倒事。


 平穏とは程遠い。


 でも――


 悪くない。


 たぶん俺の学院生活、

 これからもっと大変になる。


 そんな予感だけが、少し楽しみだった。

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