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王女が落ちてくる予感はしていた  作者: 蒼井みつき


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第15話 平民、空を飛ばされる

「というわけで勝負だ!」


「どういうわけだよ!」


 補習終了後。


 結局、訓練場へ連行されていた。


 なぜ。


 本当になぜ。


 夕暮れの訓練場には野次馬が増えている。


「またリオか」

「今度は空遊科?」

「もう日課だな」


 やめろ。


 日課にするな。


 リナは箒を肩に担ぎながら笑っていた。


「安心しろ! 死なない程度に飛ばす!」


「不穏!」


 エリシアが呆れた顔で俺を見る。


「リオ、最近本当に人気ね」


「嬉しくない」


 フィナが紙を掲げる。


『本日の特集!

 “運命の恋人、ついに空へ!?”』


「その見出しやめろ!」


 セシルが腹抱えて笑ってる。


 ガルドはなぜか興奮している。


「空中戦か……!」


「違う!」


 クローディア先生だけが真顔だった。


「先に言っておく」


「はい」


「怪我しても自己責任だ」


「教師!?」


 リナはびしっと箒を向ける。


「ルールは簡単!」


「嫌な予感」


「私へ一撃入れれば勝ち!」


「飛んでる相手に!?」


「私は空遊科首席だからな!」


 自慢げだった。


 知らん。


 空遊科ってなんだ。


 エリシアが小声で教えてくれる。


「飛行魔法専門の学科よ」


「そんなのあるんだ……」


「王国でもかなり特殊ね」


 つまり強い。


 すごく嫌だ。


 リナが地面を蹴る。


 ふわっと体が浮いた。


「うおっ!?」


 次の瞬間、一気に空へ跳ね上がる。


 速い。


 鳥みたいだった。


 周囲から歓声が上がる。


「リナ先輩だ!」

「飛行うまっ!」


 空中で一回転しながら、リナが笑う。


「ほら! 捕まえてみろ!」


「無理だろ!」


 その瞬間。


 予感。


 上。


 反射的に転がる。


 直後、突風が頭上を通り過ぎた。


「うわぁ!?」


 リナが急降下してきたのだ。


 箒を軸に、回転しながら。


「避けた!?」


「死ぬ気がした!」


「面白いな、お前!」


 面白くない。


 リナは空中で急停止する。


 どうなってんだそれ。


「じゃあ次!」


「待っ――」


 速い。


 空から連続で突っ込んでくる。


 右。

 左。

 後ろ。


 予感だけで避ける。


 完全に動物の勘だ。


「うわっ!」

「ちょっ!」

「また髪が!」


 周囲がどよめいている。


「全部避けてる……」

「飛行相手だぞ?」


 俺も驚いてる。


 だが。


 避けるだけじゃ終わらない。


「ははっ! 楽しい!」


 リナがどんどん加速していく。


 こいつ絶対戦闘狂だ。


 そのとき。


 胸の奥で予感が跳ねた。


 今。


 前へ出る。


「え?」


 リナが驚いた顔をする。


 ちょうど急降下の瞬間だった。


 近い。


 届く。


 木剣を伸ばす。


 だが。


 空振った。


「……あ」


 勢い余ったリナが、そのまま俺へ突っ込んできた。


「うおっ!?」


「きゃっ!?」


 どさっ!!


 地面へ倒れ込む。


 痛い。


 柔らかい。


 ……柔らかい?


 静寂。


 気づけば、リナが俺の上に乗っていた。


 しかも妙に近い。


「……」


「……」


 周囲が止まる。


 フィナだけが爆速でメモしていた。


『運命の恋人、ついに浮気!?』


「してねえ!!」


 リナが真っ赤になる。


「ち、違っ……!」


 エリシアの笑顔が消えていた。


 怖い。


 めちゃくちゃ怖い。


「リオ」


「はい」


「楽しそうね?」


「事故です!」


 リナが慌てて飛び退く。


「わ、悪い!」


「いや俺も――」


「失礼します」


 突然、落ち着いた声が響いた。


 訓練場の空気が変わる。


 振り向くと、入口に黒服の老人が立っていた。


 王城の使用人だ。


 背筋がぴんと伸びている。


 クローディア先生がわずかに眉を動かした。


「……王城の者か」


 老人は一礼する。


「エリシア殿下。陛下がお呼びです」


 エリシアの表情が少し固まった。


 周囲の空気も静まる。


「なお」


 老人の視線がこちらへ向く。


「リオ様もご同行くださいとのことです」


「俺も!?」


 なんで。


 嫌な予感が鳴る。


 静かだけど重いやつ。


 フィナが小声で呟く。


「なんか今までと空気違う……」


 珍しく真面目だった。


 クローディア先生が腕を組む。


「……また面倒事か」


「先生、俺帰っていいですか」


「無理だな」


 即答だった。


 エリシアが小さく息を吐く。


「行きましょう、リオ」


「顔怖いけど大丈夫か」


「たぶん」


 たぶんかあ。


 俺は空を見上げる。


 夕焼けが赤かった。


 胸の奥の予感だけが、静かにざわついていた。

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