第14話 平民、補習で逃げ場を失う
放課後。
「なんで残ってるんだお前」
「仲間だからだ!」
「その設定まだ続いてたの!?」
教室には俺とガルド、それからクローディア先生だけ……ではなかった。
「私もいるわよ」
エリシアが当然みたいな顔で座っている。
「なんで」
「心配だから」
「補習だぞ?」
「知ってる」
さらに。
「面白そうだから来た」
セシル。
「……リオが問題を起こさないか監視です」
レティシア。
「夕刊の取材です!」
フィナ。
「帰れぇ!!」
補習ってなんだっけ。
クローディア先生が教卓へ本を置いた。
どさっ。
分厚い。
嫌な音した。
「今日の補習内容は基礎魔力理論」
「もう名前が難しい」
「逃げるな」
「逃げたい」
先生は黒板へ簡単な図を書き始める。
「魔力とは、生命活動に伴って発生するエネルギーだ」
円と線。
人体図っぽいもの。
「普通の人間は体内で循環させ、それを外へ放出する」
エリシアが小さく頷く。
レティシアも真剣。
ガルドは寝そう。
仲間だな。
「だがリオ、お前は少し特殊だ」
「え」
クローディア先生のチョークが止まる。
「お前からは、魔力循環の気配がほとんど感じられない」
教室が静かになる。
「普通、人間は無意識でも魔力を漏らしている。だが、お前は異常なほど静かだ」
「静か?」
「空っぽに近い」
その言葉に、少しぞわっとした。
なんか怖い。
セシルが腕を組む。
「でも身体能力は普通じゃない」
「避けるだけだぞ」
「それが異常なんだよ」
レティシアが真面目な顔で言う。
「本来、あの反応速度は魔力強化なしでは不可能です」
「じゃあなんでできるんだ」
「それが不明なんです」
本人が一番知りたい。
クローディア先生は静かに続ける。
「だから仮説を立てる」
嫌な予感。
「リオ、お前は“外”を読んでいる可能性がある」
「外?」
「空気の流れ。視線。殺気。筋肉の動き。重心。呼吸」
先生の目が細くなる。
「つまり、お前の予感は超感覚に近い」
教室が静まり返る。
ガルドだけが「おおー!」って顔してる。
たぶんわかってない。
俺も半分わかってない。
「……そんな大層なもんじゃない」
「本人の認識は関係ない」
クローディア先生は腕を組む。
「問題は、お前が無自覚なことだ」
そのとき。
ふいに予感がした。
強い。
危険。
「……先生」
「なんだ」
「なんか来る」
直後。
ばんっ!!
窓が吹き飛んだ。
「きゃあっ!?」
エリシアが立ち上がる。
突風。
紙が舞う。
そして。
「見つけたぞー!!」
窓から誰か入ってきた。
「は?」
女子生徒だった。
長い赤髪。
小柄。
制服ボロボロ。
しかも箒を持ってる。
なんで飛んでるの。
フィナが叫ぶ。
「うわっ、空遊科の人!」
空遊科?
赤髪の女子は机へ着地すると、びしっと俺を指差した。
「お前がリオか!」
「最近そればっか!」
「私はリナ・スカイ!」
「知らん!」
「勝負しろ!」
「なんで!?」
教室が静まり返る。
クローディア先生だけが、こめかみを押さえていた。
「……今日は厄日か」
わかる。
めちゃくちゃわかる。
リナは目を輝かせる。
「お前、セシル先輩の剣避けたんだろ!? なら私の飛行も避けられるはず!」
「避けたくない」
「遠慮するな!」
「してない!」
ガルドが立ち上がった。
「面白そうだな!」
「お前は座ってろ!」
エリシアが呆れてる。
セシルは笑ってる。
レティシアは頭抱えてる。
フィナは爆速で記事書いてる。
『運命の恋人、今度は空飛ぶ少女に狙われる!』
「仕事早ぇな!?」
クローディア先生が深いため息をついた。
「……全員、静かにしろ」
空気が止まる。
先生はゆっくり立ち上がった。
怖い。
めちゃくちゃ怖い。
「ここは補習教室だ」
低い声。
「決闘場ではない」
リナがぴたりと固まる。
「だ、だが!」
「窓を壊したな」
「あ」
「修理費を払え」
「うっ」
クローディア先生は無表情のまま言った。
「リオ」
「はい」
「お前はなぜ座学のたびに事件を呼ぶ」
「俺のせいじゃないですよね!?」
先生は数秒黙ったあと、静かに言った。
「……半分くらいは」
「理不尽!」




