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王女が落ちてくる予感はしていた  作者: 蒼井みつき


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第12話 平民、新聞部に狙われる

 翌朝。


 ものすごく嫌な予感で目が覚めた。


「……帰りたい」


 最近これしか言ってない気がする。


 王城の客室。


 柔らかすぎるベッド。


 豪華すぎる天井。


 まだ慣れない。


 着替えて部屋を出ると、廊下でエリシアと鉢合わせた。


「あら、おはよう」


「おはよ……」


 彼女は制服姿だった。


 白と紺の学院制服に、金髪が映える。


 朝から眩しい。


「眠そうね」


「嫌な予感がする」


「いつも言ってるわ」


「今日のは強いやつ」


 エリシアが少し笑う。


「大丈夫よ。今日は特に予定も――」


「リオー!」


 遠くから元気な声が飛んできた。


 ミリアだった。


 銀髪を揺らしながら駆け寄ってくる。


「朝ごはん行きましょ!」


「お前朝から元気だな……」


「若いもの!」


「俺も若いよ!?」


 半ば引きずられるように食堂へ向かう。


 王城の朝食は、相変わらず豪華だった。


「だからなんで朝からこんな並ぶんだよ……」


 焼きたてパン。

 卵料理。

 スープ。

 果物。

 肉。


 朝食というより宴会だ。


 席につくと、すでにアレクシスが新聞を読んでいた。


 朝から威圧感がすごい。


「おはようございます……」


「ああ」


 短い。


 怖い。


 するとミリアがにやにやしながら新聞を指差した。


「見た?」


「何を」


「これ」


 嫌な予感。


 恐る恐る覗き込む。


『運命の恋人、学院騒然!』


「もう刷られてる!?」


 早すぎるだろ。


 しかも挿絵付き。


 なんで俺がキラキラしてるんだ。


 エリシアが吹き出した。


「ふふっ」


「笑うな!」


 アレクシスが新聞を畳む。


「広まるのが早いな」


「止めてくださいよ!」


「私は何もしていない」


 絶対楽しんでる。


 ミリアがけらけら笑う。


「もう王都中で有名人ね!」


「嫌すぎる……」


 そのとき、また嫌な予感がした。


 かなり強い。


「……来る」


「ん?」


 エリシアが首を傾げた。


 その数分後。


 王城前の広場へ出た瞬間だった。


「いたぞー!!」


 嫌な予感、的中。


「うわ」


 猛スピードで突っ込んできたのは、女子生徒だった。


 小柄。

 茶色い短髪。

 制服は少し着崩れてる。


 そして肩から大量の紙束を下げていた。


「発見!! 運命の恋人ペア!!」


「朝からその呼び方やめろ!」


 彼女は目を輝かせながら紙を突きつけてくる。


『学院新聞・朝刊』


 でかでかと書いてあった。


「犯人お前か!」


「新聞部部長のフィナです!」


「名乗るな!」


 エリシアが呆然としている。


 フィナは早口でまくしたてた。


「昨日の食堂での三角関係疑惑について一言お願いします!」


「三角関係じゃない!」


「では四角関係!?」


「増やすな!」


「レティシア様との急接近については!?」


「してない!」


「ルシアン殿下を巡る修羅場説は!」


「やめろ!」


 フィナはものすごい勢いで紙へ書き込んでいく。


 怖い。


 情報収集能力が怖い。


「なるほど、“否定はするが完全否定ではない”と」


「なんでそうなる!?」


 エリシアが肩を震わせ始めた。


「……ふ、ふふっ」


「笑うな!」


 するとフィナの目が輝く。


「今の笑顔いただきました!!」


「なにを!?」


「本日夕刊トップ決定です!」


 だめだこいつ。


 話が通じない。


 そのとき。


「朝から騒がしい」


 低い声。


 空気が止まる。


 クローディア先生だった。


 フィナの顔が引きつる。


「げ」


「新聞部」


「お、おはようございます!」


「王城前で騒ぐな」


「すみません!」


「あと捏造記事を書くな」


「捏造じゃなくて想像です!」


「もっと悪い」


 正論だった。


 クローディア先生は深いため息をつく。


「朝刊没収」


「そんなぁ!?」


 フィナが崩れ落ちた。


 先生は紙束を抱え、そのまま俺を見る。


「リオ」


「はい」


「お前も少し自重しろ」


「俺ぇ!?」


「騒動の中心にいる自覚を持て」


「勝手に巻き込まれてるだけなんだけど!?」


 クローディア先生は疲れた顔で額を押さえた。


「頭痛がする……」


 初めて人間味見た。


 エリシアが笑いながら言う。


「先生でも疲れるんですね」


「当たり前だ」


 するとフィナがぴくっと復活した。


「つまり先生公認カップル――」


 ゴッ。


 クローディア先生の拳骨が落ちた。


「痛ぁ!?」


「黙れ」


 強い。


 やっぱりこの人学院最強では?


 その後、俺たちは学院へ向かった。


 ……いや。


「なんでついてくるんだ」


「取材です!」


 フィナが当然のように横を歩いていた。


「却下」


「えー」


「えーじゃない」


 フィナはぐいっと顔を寄せてくる。


「いいじゃないですかー。今学院で一番人気なんですよ?」


「嬉しくない」


「ちなみに女子人気すごいです」


「もっと嬉しくない」


 エリシアがぴたりと止まった。


「……女子人気?」


「はい!」


 フィナがにやっと笑う。


「“平民なのに殿下へ物怖じしないのが良い”って評判です!」


 なんだそれ。


 エリシアは少し黙り、それから俺を見る。


「へえ」


「なんで圧があるの」


「別に?」


「絶対別にじゃない」


 フィナが楽しそうにメモしてる。


『殿下、牽制開始』


「書くな!」


 学院へ着いた瞬間、また視線が集まった。


 しかも今日は昨日より酷い。


「新聞見た?」

「恋人確定らしい」

「ルシアン殿下と対立したって」


「尾ひれが増えてる……」


 すると突然。


 ばんっ!!


 俺の机に両手が叩きつけられた。


「勝負だ!」


「うわっ!?」


 目の前にいたのは、大柄な男子生徒だった。


 赤髪。

 筋肉。

 でかい。


 そして暑苦しい。


「誰!?」


「ガルド・バレス!」


「知らん!」


「貴様が噂の男か!」


「噂やめてほしい」


 ガルドはぐっと親指を立てた。


「気に入った!」


「話聞けよ!」


「俺と決闘しろ!」


「なんで!?」


 周囲が盛り上がる。


「また決闘!?」

「今度はガルドか!」

「一年最強だぞ!」


 嫌な単語しか聞こえない。


 エリシアが呆れた顔で額を押さえた。


「……リオ」


「ん?」


「学院生活、楽しそうね」


「どこが!?」

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