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王女が落ちてくる予感はしていた  作者: 蒼井みつき


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第11話 平民、食堂で公開処刑される

 学院一日目。


 最後の試練は、食堂だった。


「広……」


 王立学院の食堂は、もはや食堂じゃなかった。


 高い天井。

 シャンデリア。

 長いテーブル。


 城の宴会場みたいだ。


「なんで学校の飯食う場所がこんな豪華なんだよ」


「貴族学校だから?」


 エリシアが不思議そうに首を傾げる。


 こっちが不思議だよ。


 昼時らしく、生徒たちでかなり賑わっていた。


 そして。


 入った瞬間、静かになった。


「うわ」


 視線。


 また視線。


 なんなんだこの学院。


 セシルが平然と歩きながら言う。


「もう諦めなよ」


「何を」


「注目されるの」


「嫌だよ」


 すると前方から女子たちの声が聞こえた。


「いた……!」

「運命の恋人……!」

「本当に平民なんだ……」


「その呼び方固定されたの!?」


 エリシアが横で吹き出す。


「人気者ね」


「元凶の一人が言うな」


 トレーを受け取り、料理を眺める。


「……なんだこれ」


「ランチよ」


「昼飯にしては豪華すぎない?」


 肉料理。

 スープ。

 焼きたてパン。

 デザートまである。


 村の祭りか?


「王城よりは質素よ」


「王族怖……」


 適当に席へ向かう。


 当然のようにエリシアが隣へ座った。


 当然のように周囲がざわついた。


「隣!?」

「また!?」

「もう結婚しろよ」


「お前らそれ好きだな!?」


 すると、どかっと向かいへ座る人物がいた。


 レティシアだった。


「え」


「なにか」


「いや、なんでここ」


「空いていたので」


 絶対違う。


 周囲もざわついてるし。


「レティシア様が同席!?」

「今日はなんなんだ……」


 本人は気にせず紅茶を飲んでいた。


 そこへさらにセシルが座る。


「楽しそうだから混ざるよ」


「お前は絶対来ると思った」


 結果。


 学院でもかなり目立つ組み合わせが完成した。


 視線が痛い。


 胃が痛い。


 帰りたい。


 エリシアが肉を切り分けながら聞いてくる。


「リオ、学院どう?」


「一日目で寿命縮んだ」


「慣れるわよ」


「慣れたくない」


 セシルが笑う。


「でも人気は本物だよ」


「嬉しくない」


「特に女子」


「もっと嬉しくない」


 すると近くの席から悲鳴が上がった。


「こっち見た!?」

「今笑った!?」


「怖っ」


 なんだこの空間。


 レティシアが静かにスープを飲みながら言う。


「あなた、妙に人を惹きつけますね」


「迷惑なんだけど」


「自覚がないのも厄介です」


 そのとき。


 また予感がした。


 嫌なやつ。


 かなり強め。


「……来る」


「え?」


 食堂入口がざわつく。


 人が左右へ分かれた。


 そこを歩いてくる男を見て、俺は顔をしかめる。


「うわ」


 ルシアン王子だった。


 青い軍服。

 金髪。

 相変わらず無駄に絵になる。


 だが今回は笑顔じゃない。


 完全に機嫌悪い顔だ。


 周囲が一気に静まり返る。


「ルシアン殿下……」

「なんで学院に?」


 ルシアンは真っ直ぐこちらへ来た。


 逃げたい。


 すごく逃げたい。


 エリシアの顔も強張っている。


「久しぶりだね、エリシア」


「……何の用ですか」


「挨拶に来ただけだよ」


 絶対違う。


 ルシアンの視線が俺へ向く。


「それで」


 来た。


「また君か」


「どうも」


「学院へまで入り込むとは思わなかった」


「俺も思ってない」


 セシルが吹き出しかけてる。


 やめろ。


 ルシアンはじっと俺を見る。


「今日は石につまずかない」


「まだ根に持ってたのか」


「当然だ」


 ですよね。


 周囲の空気がぴりつく。


 だがそのとき。


「ルシアン殿下」


 レティシアが静かに口を開いた。


 全員がそちらを見る。


「食事中です」


 冷たい声。


「用件がないなら、お引き取りを」


 おお。


 強い。


 ルシアンが目を細める。


「公爵令嬢が平民の肩を持つのか」


「違います」


 即答。


「騒がしいのが嫌いなだけです」


 こっち見た。


 俺のせいみたいな目やめろ。


 すると、エリシアがぽつりと言った。


「……リオは関係ありません」


 静かだった。


 でも強い声だった。


「私が、自分で連れてきたの」


 食堂が静まり返る。


 ルシアンの顔から笑みが消えた。


「本気なんだね」


「ええ」


 数秒の沈黙。


 それからルシアンは、小さく笑った。


「面白くないな」


 笑ってるのに目が冷たい。


 ぞわっとする。


 でも次の瞬間。


「おいルシアン」


 さらに低い声が落ちた。


 空気が凍る。


 またかよ。


 振り向く。


 アレクシス王子だった。


「兄上!?」


 今日何回来るんだこの人。


 アレクシスは不機嫌そうにルシアンを見る。


「学院で騒ぎを起こすな」


「……失礼しました」


 ルシアンは一礼した。


 でも去り際。


 俺の横を通る瞬間、小さく囁く。


「次は勝つよ」


「やめて怖い」


 ルシアンが去ると、食堂全体が一気に息を吐いた。


「疲れた……」


 本日何回目かわからない台詞を呟く。


 すると隣で、エリシアが小さく笑った。


「リオ」


「ん?」


「ありがとう」


「何が」


「隣にいてくれてること」


 不意打ちだった。


 周囲のざわめきが、一瞬遠くなる。


「……そういうの急に言うな」


「本音だもの」


 顔が熱い。


 セシルがにやにやしてる。


 レティシアはなぜか難しい顔してる。


 そして遠くから、また誰かの声が聞こえた。


「新聞部ー!! 新しいネタよー!!」


「やめろおおおお!!」


 学院中に俺の叫びが響いた。

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