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王女が落ちてくる予感はしていた  作者: 蒼井みつき


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第10話 平民、貴族に囲まれる

 授業終了後。


 俺は死んでいた。


「疲れた……」


 訓練場の隅で座り込む。


 全身が痛い。


 避けるだけって、こんな疲れるのか。


 エリシアが水筒を差し出してきた。


「はい」


「神か?」


「王女よ」


「似たようなもんか」


 水を飲む。


 生き返る。


 すると周囲がざわつき始めた。


「……?」


 顔を上げる。


 いた。


 貴族たち。


 めっちゃいる。


「うわ」


 男子生徒も女子生徒も、妙にそわそわしながらこっちを見ている。


 嫌な予感しかしない。


 そして予感は当たった。


「き、君!」


 一人の男子生徒が前へ出る。


 茶髪。

 細身。

 なんか緊張してる。


「は、はい?」


「どうやってセシル様の剣を避けたんだ!?」


「気合い?」


「気合いで避けられるわけないだろ!」


「俺もそう思う」


 すると別の女子生徒が割り込んできた。


「エリシア殿下とは本当に恋人なんですか!?」


「そっち!?」


「気になります!」


「ならないで!」


 さらに増える。


「どこの村出身!?」

「予感って何!?」

「王子を倒したって本当!?」

「好きな食べ物は!?」

「殿下のどこが好きなんですか!?」


「最後やめろ!」


 囲まれた。


 完全に。


 エリシアが少し離れた場所で笑いを堪えている。


「助けろ!」


「人気者ね」


「他人事!」


 セシルまで混ざってくる。


「いやあ、予想以上に注目されてるね」


「お前のせいでもあるだろ!」


「否定はしない」


 こいつ絶対楽しんでる。


 そのとき。


「道を空けなさい」


 冷たい声が響いた。


 一瞬で人垣が割れる。


 レティシアだった。


 相変わらず氷みたいな顔。


 でもなぜか、まっすぐ俺のところへ来る。


「……なんだよ」


「聞きたいことがあります」


「怖い聞き方するな」


 レティシアは少し黙ってから言った。


「あなた、本当に魔力がないの?」


「ない」


「本当に?」


「なんで二回聞く」


 彼女はじっと俺を見る。


 観察されてる感じがすごい。


「普通、人は無意識でも魔力を使って身体強化をしています」


「へえ」


「ですがあなたからは、それを感じない」


「つまり?」


「意味がわかりません」


 知らんがな。


 レティシアは眉を寄せる。


「理屈が通らないのは嫌いです」


「俺も今の状況嫌いだよ」


 すると、少しだけ。


 本当に少しだけ。


 彼女の口元が動いた。


「……変な人」


「お前ら最近そればっかだな」


 周囲がざわつく。


「レティシア様が笑った?」

「初めて見たんだけど」


 本人も気づいたのか、レティシアはすぐ真顔へ戻った。


「勘違いです」


「誰も何も言ってないぞ」


 そこへ、ぱたぱたとノアが走ってくる。


「大変です!」


「今度はなんだ」


「掲示板前が大騒ぎです!」


「は?」


 全員で学院中央の掲示板へ向かう。


 人だかりができていた。


「なんだなんだ?」


 前へ出て、固まる。


 紙が貼られていた。


 でかでかと。


『速報!!

 エリシア殿下、“運命の恋人”と学院登校!!

 本日訓練場にて愛の共同戦線!!』


「誰だ書いたやつ!!」


 しかも下に妙な挿絵まである。


 なんで俺がキラキラしてるんだ。


 エリシアが真っ赤になった。


「な、ななな……!」


 ノアが青ざめる。


「親衛隊新聞部……!」


「あるのかよそんなの!」


 セシルが肩を震わせてる。


 絶対犯人側だろこいつ。


 さらに下を見る。


『なお恋人は平民ながらセシル・フォン・レイヴンを撃破。

 殿下、恋に落ちると男の趣味が変わる説が有力』


「失礼すぎるだろ!」


「ぷっ……!」


 エリシアが耐えきれず吹き出した。


「笑うな!」


「だ、だって……!」


 肩震わせてる。


 笑いすぎだろ。


 そのときだった。


「……騒がしいと思えば」


 空気が変わる。


 周囲が一斉に静まる。


 アレクシス王子だった。


 なんでいるの。


 あんた、学院関係者じゃないだろ。


 全員が道を開ける。


 アレクシスは掲示板を見上げ、数秒沈黙した。


 終わった。


 絶対怒られる。


 だが。


「……ふっ」


 笑った。


 まさかの二回目。


「兄上!?」


 エリシアが目を見開く。


 アレクシスは肩を震わせながら言う。


「運命の恋人、か」


「違います!」


「否定の息が合ってるな」


「そこ褒められても!」


 周囲の貴族たちがざわつく。


「殿下が笑ってる……」

「今日どうしたんだ王族」


 アレクシスは俺を見た。


「リオ」


「はい」


「面白い男だな」


「最近それしか言われてない」


「褒めている」


 いやたぶん褒められてない。


 すると王子は掲示板の紙を剥がし、そのまま俺へ渡してきた。


「記念に持っておけ」


「いらない!」


 周囲が爆笑した。


 エリシアは顔を真っ赤にしながら、それでも少し嬉しそうに笑っていた。


 そして俺は悟る。


 学院生活。


 まだ一日目だった。

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