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永劫の勇者  作者: 竹羽あづま
第5部郷愁のマリオネット
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第97話:恵まれた少年

「……ん」


 それは誰かの呼ぶ声だった。その声に応じる様に意識が浮上しようとするものの、葵は頭がひどく重く感じられた。睡眠薬で眠りにつかせた身体を眠りから無理やり引き剥がす様な重さだった。


「…………さん」


 この感覚は、異世界に来たばかりの頃を想起させた。ゼーベルアと交戦し、この世界で初めて命を落とした時の事を。

 そのせいか、葵の名前を呼ぶ声の主が、その少女にリンドの姿が被って見えた。


「葵さん!!」

「!!」


 だが、ピントの合わない視界のピントが合った時に見えたのは、血相を変えた桃色の髪の少女、ミアの姿だった。


「ミア……?」

「あ、葵さん!今、ここがどこで、自分が誰か、答えられますか!?」

「え?なにを、いきなり……ここは、ノアの、俺の自室で、俺は……滝沢葵」


 いまいちまだ状況を飲み込めていない様子だが、返答は正常に出来ていることから大事はない様だとミアは安堵の吐息を漏らした。

 彼女のその様子がなにやら大袈裟ではなさそうなことを察した葵は、その直後から散らかした本が本棚に急速に収められる様に彼の意識に整理がつく。


「あ、そ、そうか……俺、そのまま倒れたんだ……」

「何があったんですか?どこか悪いんじゃ……」

「あぁいやいや!そんな事は全然!ありがとう、声をかけてくれて。後ごめん、びっくりさせて」

「そんな事は全然って言うなら倒れないと思うんですけれど。本当に何もおかしな事はないんですか?」


 なかったと言えば嘘になる、夢の中で見た物があの痛みと共に鮮明に残っている。そうした感覚に慣れてきた今でも、夢の中での痛みの残滓で頭が割れそうな気分だった。その痛みがあるからこそ、夢であって夢ではない確信もあった。

 だからこそ、どちらとも言えずに口をつぐむ。


「おかしな事があったって、顔に書いてあります」

「えっ!?」

「そのおかしな事って、リンドさんの顔色が良くなってることと関係がありますか?」

「そ、れは……うん」

「それは私には言い辛い様なことですか?」


 彼女は葵の考えた事を物知りな魔神の様にスムーズに暴いていく。どうやら、葵の様子に驚きながらも、彼がそうなった理由についても考えていたのだろう。

 ただ彼の身体が純粋に不調の中にあって、その結果がこれである可能性は排除出来ない。だが、そんな彼の不調と反比例する様に顔色の良くなっているリンドと、葵の性格から考えたらそこに結びつく何かがあった可能性の方が高いと考えた。違うのならば彼も言い淀まないだろうから。


 故に、葵は少しの間を置いてから「うん」と小さく肯定する。肯定してからまた一瞬の間を置き、目を丸くした。


「えっ、リンドの顔色が良くなってる!?ちゃんと良くなってるの!?」

「は、はい。青白かったのが、見慣れた白いお肌になった感じです」

「そうか、そうなんだ──」


 この世界に来てから味わった感覚、術を使う際のデジャブ、その結果発生する出来ると言う明確なビジョン。そして、それを成立させる為の動力源たる自身の魂の利用。失敗する要因がない程だったが、それが無事成功したのだと分かり、安堵の吐息をこぼした。


(リンドがあんな記憶ばかりをもし見ているのなら、せめて苦しみを抑えられた方が良いに決まってる。そうでなくても、苦痛なんて味わって得する事はない)


 あくまで、人間の感性と個人の感覚によるものだから、余計なお世話かもしれない。余計なお世話を超えて、余計な事だったかもしれない。だが、彼女にだって痛覚もあれば苦しいという感覚もある事を知ってしまっている。だからこそ、効果がちゃんと出て良かったという安堵感がただ、ただ強いのだ。

 無論、良かったでは済まない人間が目の前に居て、彼女が葵の言葉を待っているのだから安堵している場合でもないのが現状だろう。


「……えっと、すごく申し訳ないんだけど、これは一旦はここだけの秘密にしてほしい。無論、エレン艦長には伝えようと思ってる事だけれど」

「エレンさんにお伝えするなら、分かりました。私も他言しませんから、教えて下さい」

「うん、ありがとう……治癒術を使ったんだ」

「治癒術を!?」


 声量が大きくなりそうだった事に気付き、急いで自分の口を両の手で塞ぐミア。その状態のまま声を潜めて言葉を続ける。


「な、何でそんな危ない事を。あんな物を使えば、その反動で体内の魔力が一気に枯れてしまったり、後遺症として欠乏症にまで至るかもしれないんですよ!?そのリスクに見合う様な明確な効果は出ないのも知ってますよね!?」

「う、うん。リスクは、すごく承知の上のつもり、で。いや、違うアプローチでやったんだ」

「違うアプローチ?」


 ミアの顔から気遣う様な表情の中に少しの複雑な感情が見えた。自身の立場が立場だからか、その分野について葵が倒れてた原因のみとして聞くわけにはいかない。それは彼個人を心配する気持ちと両立するものではあるだけに、バツの悪そうな顔をする必要はないと葵は思うが、これはあくまで彼女の考え方なのだから何も言えはしない


「と言っても、この船で書に残されてる様な術と違って、誰でも使える様に考えられた物ではないからあまりアテにならないものだけれど……」

「と、言いますと?」

「治癒術が成立しない理由については知ってるだろうからそれを省いて言うけれど、邪神に喰われていない魂を利用したんだ」

「そんな魂どこに──」

「ここに」


 葵の発言にミアは目を丸くして、何も言わない。葵のその言葉の意味を図りかねていた。

 彼女がその反応になるのは分かっていた。そもそもが、葵が既に死人であるという前提すらもノアの中で共有している人はリンドと、葵が死んでる事を先に知っていた義樹ぐらいだ。それを匂わせる様な事は口を何度か滑らせてはいるが、明言はしていない。


「俺は生きた身体でここに来ていない。肉体がないから精神だけが夢に落ちることが出来ず、魂という本体で直接ここに来てるんだ」


 何故それを早く伝えなかったのかについてもミアはすぐに行き着いた。当の勇者が、旗印が、元の世界に帰る目処が立っていない状態である事、それが判明していると悪い影響が出かねない。同じ目的を掲げて共に居る人、その目的を持つがと信じているが故についてきてる人々、そんな彼等に葵本人の動機の部分に不安を抱かせてしまえば士気に関わる。

 加えて、ミアが先代勇者についてエレンから口止めされていた事もあっただけに、尚更何か言う事は出来なかった。


「だから、俺の魂自身を利用して治療した。ただ、俺の魂が異物として混入しない様に、かつ成立させるにはただ治す機能だけを発動するわけにはいかなかったんだ」

「……だとしたら、身体自体の自然治癒能力を促進させる方向性、ですか?」

「そう、俺の中にある対象の元気な時の姿の記憶を相手の身体に想起させてそこに戻す様に促す感じかな。俺自身のイメージだけだと、相手の状態が悪い程に弱くなるかもしれないから出力の元を俺の魂、主に治すのは相手の精神の情報で成立させる。みたいな感じ」


 ミアは方法としては納得した様に一度頷き、その後も葵から目を逸らす事はなかったが、隠しきれない悲しみの感情がそこにはあった。


「それは、消費してはならない物を消費する力です。いずれ、それを実感しかねない危険な物だと思います」

「……それは、うん」

「それは、便利な力かもしれませんし、それがあるのとないのとでは大きく違うとは分かってます。分かっていますが……貴方が死なないっていうのと同じで、それがある前提で動くのは違うって、それは分かってほしい限りです」


 実用性という点を理解しながらも、あえて彼女はそれに対して否定的な言葉を、出来る限り直接的に伝えていた。


「そんな手段があるって事を、出来れば私以外に言ってほしくないぐらいです。エレンさんにだって」


 ミアとエレンは先代がいた頃を知っている者同士で、葵が知る以上に信頼があると思われるが、それでもなおその言葉が出る。彼女は人が傷つく事を当たり前に嫌がることができる人間であるが、葵の事になるとそれは更に強く、譲れないものになっている。


「お母さんは突然いなくなって、本当に小さい頃に兄も突然いなくなりました……何かがあった事、多分それは私には手に負えない物で、私に教えてもどうしようもない事だったのかもしれないけれど、思い詰めてた事だけは私でも分かりました」


 わざわざそう言う事には、葵がそうなりそうだと言う不安を抱いてるという気持ちの表れに他ならなかった。


「お母さんも、兄さんも、先代勇者も、私の前から大切な人が私に何も言わずにいなくなってしまいます。いつも、いつもそうです……私、1人はもう嫌です」


 消え入る様な声は悲痛であり、祈る様であり、なにより悲痛だった。彼女にとってそれらに並び立つほどに葵はそこにいてほしいという事らしい。

 葵は戸惑いを抱いていた。確かに彼女は良くしてくれて、異性の中でも特に話しやすい人間かもしれないが、何故ここまで思ってくれるのかまではわからない。彼女の今あげた名前は彼女にとってそれほど身近な人間である事は分かるだけに、何故その中に自分の名前が含まれそうになっているかまでは分かりかねていた。それは確かに嬉しいもので、ありがたいとも思うのは間違いないが──


「何も伝えてもらえない人には、もうなりたくない……」


 術その物の是非についてから脱線していた事に気付いたミアは首を横に振る。


「すみません、私の話ばかりで。これじゃ、変な子です。えっと、だから……エレンさんの意見にもよりますが、私はそんな積極的に使ってほしくないなって事で、それを覚えていてほしいです」


 過保護だし、飛躍した話かもしれませんが、と誤魔化す様に笑いながら、自分の両頬を手で押さえる。

 その様子を見て、戸惑いを覚えた事に対する罪悪感が湧いたのだ。自分の為に言葉を尽くし、思い悩んでくれている人に対してそんな感情を抱くのは、自己否定に他者を巻き込む行いではないか、と。


「……力でしか」

「?」

「力でしか、皆の力になれないのも歯痒くて、技術力も俺にはないから、せめて魔術の方なら何か見つけられるかもって、思ったんだ」

「そんな、ことは──」

「もしかしたら、そんな事ないのかもしれないけれど、俺自身が納得出来ないんだ。先代勇者みたいになる為にも、少しでも早く皆を地球に帰す為にも」

「焦っても良い事はありません!あまり、言いたくはないですし、とても嫌な言い方になりますが、先代ですら皆の帰還は……成し遂げられなかったのですから」


 帰還ではなく保護をし、次代の勇者の為に知識や船を残した。先代は多くのことをやったかもしれないが、事実として邪神も魔王も倒される事はなかった。

 だから、次代の勇者である葵が来てから使徒を既に2人も倒している事、魔王と顔を合わせた事、確実にことは既に進んでいる。それだけに、今ここで焦る必要はないのではないかとミアは考える。


「うん。それは、そうだと思う」

「ね?だから、今は少し、忘れましょう。焦る様な事態には常になっていて、でも今はその中では落ち着いてるのですから」


 葵なりの考えを聞いて、心なしか安堵した様に表情の和らいだミアは、葵の両肩を手で優しく2回叩く。


(忘れられたら、確かに良い。心身共に休まる必要があるんだから)


 今回は皆はそうするべき、という思考ではなく自分もまたその必要があるのだと理解はしていた。ミアの前だから尚更に。

 しかし、彼の内側に居る“彼等”が警鐘を鳴らし続けているのだ。


──仮初めの平和、使徒はいつでも勇者の命を狙う


 彼等が実際に言っているわけではないが、彼等の魂が息を吐く様に葵の中でその事実を反響させてくる。誰にも聞こえない声、葵にのみ聞こえる声が染み付いて、離れないのだ。この力に目覚めた時から頭の中は常に賑やかになってる。


──邪神の悪意はその隙をいつでも見ている


──勇者は鍵、故に安息はない


 この世界の悪意にかかって化け物になった人、使徒として戦った人、この世界の悪意に詳しい人達の魂が無数に既に収められている。そんな彼等の声を聞きながら、彼等なりの忠告を聞き流すなんて出来るはずもなかった。聞き流すには罪悪感が既に蓄積しすぎた。


(皆の前では、あんなに偉そうに、あんなに威勢張ってるけれど、ずっと不安を抱いてばっかりなのは我ながら格好が悪いなぁ)


 そう思えるからこそ、ミアの言う通りなのかもしれない。

 大変な事も多ければ、今度こそ手に余る様な事態かもしれないと思った時も多くあった。それでも皆の力を借りてここまで来れた。多くの地球人が帰りたいという意思を共有しているだけに、共通の目的で協力し合えてここまで来た。そう考えたら、葵だけが焦っても意味はない。


 高校生の滝沢葵なのか、地球人の滝沢葵なのか、勇者なのか、焦りの中にまだその狭間にいるという事実もあった。

 ちゃんと勇者になりたいと思っていたというのに、自分の進歩のなさから葵の口は自嘲気味に笑みを作り出していた。


「葵さん!なんで笑ってるんですか」

「え」


 ミアに言われるまで自分の顔がそうである事に気付かず、急いで表情を正す。

 ミアの方も別に彼に茶化されたと思ったわけではないが、真面目な話をしている時だというのにという不満はないわけではない。加えて、場にそぐわない彼の様子に対する疑問を純粋に投げかけている面もある。


「ごめん、ふざけていたつもりではないんだ。ごめんね」

「それは分かっていますが、どうしたんですか?」

「いや、同じ問題に対してずっとグルグルしてて、前を向けないものだからさ。我ながら格好悪いなって、ちょっと恥ずかしくなったんだ」

「問題がどこかでパーっとすぐ晴れてくれるとも限りませんし、自分の気持ちと相談し続けて着地点を探さないといけない事も多いですから、そんな恥じる事ではないと思います」

「まぁ、確かに、あるあるかも……」

「でしょ?困ったなぁ、とか。モヤモヤするって時も、気軽に話せる人が近くにいたらそれとなく話すのもアリですし。葵さんの抱える悩みの全部が分かるわけではありませんし、私が思うよりその根っ子は深くにあるのかもしれません。でも、その悩みが貴方自身を傷つけるぐらいなら、時にはオープンになりましょう」

「──皆も、同じ様な悩みを抱いてて前を向いてる、様に見える。きっと皆も苦しいのかもだけど。そんな皆に甘えるのって気が引けて」

「誰にでも広めたら、おねだりになってしまいます。感情のおねだり。だから、誰か1人にでも良いんです」


 民間人の皆にはとても話せない。彼等にとってはそうした心の弱さや不安を見る方が、彼等の心には良くない。

 しかし、仲間も自分と同じで人を殺めたという経験が重荷になってるであろう事を思えば、話しやすい様な同時に話しにくい様な、そんな心地だ。この異世界で生き残る為のルールとして許された命の軽さは、本当なら皆が最も最初に抱く戸惑いで、もっとも最初に抱く恐怖のはずだから。


「その1人に、私も立候補しても、良いんですけどね……?」


 そう恥じらう様に小さく言ったミアは、葵にそれが聞こえてほしい様な聞こえてほしくない様な、そんな純粋な照れの混じった極めて個人的な理由を暗に示す言葉だった。

 それがバッチリ聞こえていた葵は、しばしの間をおいてから頷こうとして、顔を覆った。


「ありがた恥ずかし」

「ありがとう恥ずかし!?」

「そうした弱みってこう、見せたら無礼かなみたいなアレがあったのは勿論だけど、明かすタイミングも相手も難しいじゃん!?それが、その、女の子相手に見せるってこう……恥ずい」


 数度の瞬き、仲間として過ごす時間が長くなってきたから、あくまで仲間のカテゴリーを抜けるのは難しいかと思っていただけに、予想とは違う反応にミアも固まった。ミアの髪のリボンが既に証明済みだった事だ。

 だが、異性相手に張りたい意地がある事を見せた葵に嬉しくなりながらも、これまでデリケートな話題をライ辺りとはやってたらしき事を思い出して急に生来の負けず嫌いが彼女の中で微かに、ふつふつと湧き上がり始めていた。


「デリケートな話題、一応!これでも、ちゃんと、医師の端くれなので私はアテになると思うんです!」

「は、はい」

「同性の方が話しやすいなぁとか、リンドさんの方が話しやすいなぁとか、あるかもしれません!あっても滅茶苦茶とっても納得です!でも、でも、私も、いつでも良いですから!」

「あ、ありがとう!」


 ありがたさ9割は込めつつも、残りの1割は勢いに気圧されていた。

 ミアの中で彼に少しでも明かしてもらえることへの信頼、それが羨ましいという理由が多少先に回ってるやもしれない。その自覚があるからか──


(私も恥ずかしくなってきたかも……!!)


 葵が今回の様な事をした理由を考えていると、自分の気持ちを優先した様な押し付け方をしてしまった気がしたミアは、続ける言葉を必死に探る事となった。

 そんな彼女の様子を見て、葵は先程と違った普通の、気が抜けた笑みを思わず浮かべた。


「……へへっ」

「レアな笑い方してます!?」

「い、いや、本当にごめん。今すごく困らせちゃってるなって分かってるけれど、なんだか気が抜けちゃって」

「こ、困らせてなんかは……いや、困らせてくれて良いんですけれど。むしろ。今回みたいな困らせ方はダメなだけで!あわ、困りのゲシュタルト崩壊!!」

「お、落ち着いて落ち着いて!今そういう話だったもんね、困らせてくれて良いって方の話ね」


 勇者でなければ、格好つけなければと思っていた焦りも、こうした時に少し解される。言えない事も多ければ、言ってはいけない事も多いが、少なくとも肩肘を走り続けては肩が張ってしまうというものだ。


「……でも、葵さんは男の子なんですから恥じたり、格好悪いって不安になる事もあるのもまた、否定する事ではないと思いますよ」

「む……」

「私も恥ずかしいところを見せたくないなって思った事いっぱいあります。ですから、恥ずいってタイミングはどこかで訪れますし……覚えていて下さい。私だけじゃなく、皆きっと頑張る貴方に力を貸してくれますから」


 使徒達と違って葵の周りにはいつでも仲間が居た。戦士ではなくとも、応援してくれたり激励をかけてくれた、辛い状況の中にあっても互いに励ましあって、時には勇者の名を胸に心強く保ってくれていた。

 甘く見ていたつもりはないが、周囲の人間は自分より強い人達なのだ、先程まで相談に乗ってくれていたブランもそうだった。


──勇者は鍵、故に安息はない


『大罪を自覚し、その果てにて、()ね。寄生された有機生命体、己が望みを餌に肥えさせた、愚者よ──』


 反響する言葉と垣間見たリンドの記憶に対して、一度だけ耳を押さえる。

 閉じ込めて、自分の中にしっかりと刻むから、自分の恵まれた状況を実感している今だけはどうか静かになれば良いと、少しの我儘を込めて。


 皮肉にも今この状況を葵は恵まれてると思ったのだ。地球にいた頃の自分よりも、命の危険も周囲にあって、余裕もない状況だと分かっているのに。

 滝沢葵にとって勇者は祝福なのか、呪いなのか。どちらだというのだろうか?


「ミア」

「は、はい!」

「いつも、ありがとう」


 謝罪ばかりだったが今はこの言葉がより適切だろう。そして──


「格好つけたい年頃だから、たまには見逃してね」


 我儘をもう少しだけ、ほんの少し口にする。


「度合いによります」

「そっかぁ……」


 バッサリとミアにそう言われ、肩を落としたのだった。

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