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聖女を追放した国の物語  作者: 猫野 にくきゅう
レトナーク平原の決戦

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第77話 祈り

 チャルズコートとの決戦が迫っている。


 かの国との此度の戦争は、チャルズコートで発生した、『聖女暗殺事件』がきっかけだ。

 暗殺の黒幕は我が国のアレス王子だという言いがかりを、チャルズコートがつけてきて、それを公表したことで、開戦は避けられなくなった。



 チャルズコートは、元々戦争をする気だったのだろう。


 用意周到に、北の大国を味方に付けていた。

 北からの援軍をアピールし兵士の多さを示して、レトナーク平原の中小国家の半数以上を味方に引き入れた。



 対する我が国リーズラグドは、北と南の防衛に兵力を割かねばならず、東のゾポンドートは内乱の傷跡がまだ残り、南のダルフォルネはローゼリア事件からの復興途中で、十分な兵力を集められずにいる。




 戦争は勝つ方に味方するものだ。

 最初から負けると思われている、リーズラグドに付こうとは思わない。

 


 ただ――

 アレス様とソフィ様が大規模魔物災害『メデゥーサ』を討伐した名声が、レトナーク平原に広がっていて、いくつかの国がこちらに付いてくれている。


 さらに傭兵稼業の腕自慢の者達が、英雄アレスと共に戦いたいと、国という枠組みを超えて、義勇兵として参戦してくれている。



 私もアレス様の親衛隊の隊長として、共に戦場に赴こうと思っていたのだが、聖女暗殺の報が届いたころ妊娠が発覚し、アレス様から後方で大人しくしているようにと言われてしまった。


 今は王都にある実家で、言いつけ通りに大人しくしている。



 本当は戦場に、今すぐにでも駆けつけたい。


 これからこの国の、存亡をかけた決戦が始まるのだ。

 私はアレス様と共に、戦いたかった。






 

 小さな頃から、ずっと一緒にいた。

 

 アレス様が剣を習いたいと言い出して、私が教えることになった。

 自分に弟が出来たみたいで嬉しかったし、剣の腕もすぐに上達していって、成長を見守るのも楽しかった。


 一緒に魔物を退治して回るのも、反乱鎮圧のために戦場を駆けるのも、命のやり取りという緊張を孕んだ毎日だったが、振り返れば充実した日々だった。



 だが一番大事な戦いに、お供出来ない――


 一緒に戦うことが出来ない。






 三か月前――


 戦争のためにルーズベリル領を経由して、レトナーク平原へ赴くアレス様と父が、揃って私を見舞いに来てくれた。


 子供が出来たことで、父には褒められたし、アレス様も喜んでくれた。

 私の身を案じてくれたし、元気な子を産んでくれと言ってくれた。


 でも、それでも私は、戦場へ行きたかった。


 ――それが、私の一番の望みだった。


 





 今頃はリーズラグドもチャルズコートも、主戦場となるレトナーク平原へと兵力を送って、集結させている段階だろう。



 決戦前の前哨戦は、すでに行われている。


 自領近くの敵勢力を攻撃して、責め潰す。

 ――といっても、真っ先に攻撃対象になってしまうため、大国周辺の小国は基本的にそちらに付くので、戦闘はあまり多くはない。


 



 リーズラグド周囲で、敵側に付いたレトナーク平原の小国は一つだけだった。

 そこは早速、アレス様が落としている。



 少数で敵城に入り込み、敵将を討ち取って降伏させた。


 そんな無茶苦茶なことが出来るのは、世界広しと言えど、あの方くらいだろう。小国の城とはいえ、少数で潜入して占拠するとは――



 降伏した敵国は、大人しくこちらに付いたそうだ。


 これで多少は、味方の数も増える。




 あと一か月もすれば、集結した大軍同士の激突が始まる。

 

 やはり私も、参加したかった。






「リスティーヌお嬢様、ソフィ様とリィクララ様がいらっしゃいました」


 そう言えば今日は、姫様方がいらっしゃるのだったな。


 私はお二人の待つ客間へと赴く。



 ソフィ様は孤児院や介護施設などを慰問することが多い。

 そして私のように、子供が出来た女性を訪ねることも――


「リスティーヌ様がこれからも健やかに、お腹の子供が元気で無事に生まれてきますように……」


 目を瞑って、そう祈ってくれた。

 子供の、無事を――


 私は自然とお腹に手を当てて、優しく撫でた。



「私の祈りには何の力もありませんが、私にはこれくらいしかできません。それでも、出来ることをしようと、こうして訪ねてきました」


 そう言って、微笑んだ。



 

 ソフィ様は謙遜していたが、そんなことはない。


「何の力もない、という事はありません。――私はアレス様と同じ戦場に立ちたかった。そんな未練がずっとありました。今日ソフィ様とお会いしていなかったら、きっとこの後悔を抱えたまま、この子を産んでいました。それはこの子にも、私にも良くないことだと思います。――それを、ソフィ様が変えてくれました」



 祈りは、無意味ではない。

 人を思いやる気持ちは、人の運命を少しだけど変えることが出来る。


「きっとソフィ様は、自分が思っているよりも、多くの人の運命を、良い方向へと変えていると思います」



 私がそう言うと、ソフィ様は『そうだったら、私も嬉しいです』と言って――

 少し照れ臭そうに笑った。






 それから話題は、この国の懸念事項に移った。


 数か月前に一人の女性が、ピレンゾルから追放され、この国で保護されている。

 彼女からピレンゾル上層部の、異変を知らされている。



 現在ピレンゾルはチャルズコートに呼応して、この国を攻めているが士気は高くない。毎日のように白旗を掲げて、投降する兵士が後を絶たない。



 彼らから得たピレンゾルの情報を、ローレイン様が分析している。


 古文書の研究をしているロザリアの知識も合わせて、敵情を推測した結果――




 ピレンゾルはベルゼブブという悪魔を引き継いだローゼリアが、裏から支配している可能性が高い。


 しかし、ローゼリアはソフィ様に対して恐怖心を抱いており、悪魔の力を使って直接手出しは出来ないだろうと、推測されている。



 あくまで推測なのだが、ローレイン様の予測は外れたことが無い。



 ローゼリアの性格を考えれば、妊娠している私をターゲットにすることも考えられる。直接の手出しは無いだろうと言われているが、屋敷の警備はいつも以上に厳重だ。


 ローゼリアという不安要素はあるが、ソフィ様という安心材料もある。




 アレス様はよく、病は気からと言っていた。

 気にしすぎるのも良くないだろう。

 


「悪魔ベルゼブブは、私が居ればこの国には手出しが出来ないそうなので、安心してください。私が皆を守ります」


 ソフィ様はそう言って、少し胸を張った。


 私を安心させたかったのだろう。





 ――その後は、リィクララ様から子作りに関するアドバイスを求められた。


 それにはソフィ様も興味があるようで、二人揃って顔を真っ赤にしながらも、真剣な表情で聞いている。




 私なりにアドバイスをさせて貰った。

 参考になると良いのだが――

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